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【ニュースレター】組織横断によるプロジェクトチーム立ち上げから20年
キレイが100年つづく衛生陶器『アクアセラミック』誕生までの道のり
〜目指したのは“ 陶器そのもの ( ・・・・・・ ) でトイレの汚れを解決する”技術〜

2016年08月29日

ユーザーのトイレに対する一番の困りごとは「清掃性」です。“便器(衛生陶器)そのものでトイレの汚れを解決する”―トイレを製造するメーカーにとっての長年の悲願とも言えるこの課題に対し、住まいと暮らしの総合住生活企業である株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長:瀬戸欣哉)は、キレイが100年つづく衛生陶器『アクアセラミック』という世界初の革新的技術の開発によって、世間にひとつの答えを提示しています。

2016年、LIXILの主力トイレ「SATIS」に初めて搭載されたこの技術の開発までには、20年の歳月が費やされました。本ニュースレターでは、関係者へのインタビューを交えながら、開発までの道のりを振り返ります。

―「抗菌トイレは汚れが付きにくい」お客さまの声をきっかけに、組織横断プロジェクトがスタート

LIXILの挑戦が始まったのは、今から約20年前となる1997年(当時はINAX)。開発のきっかけとなったのは、当時世間を騒がせていた「O-157」が流行っていたときに、抗菌技術「キラミック」を施した“抗菌トイレ”(1994年発売)に寄せられたお客さまの「“抗菌トイレ”は汚れが付きにくい」という声でした。

“抗菌トイレ”の技術を応用することで、汚れに強い衛生陶器の開発が可能なのではないか、そんな思いから、当時珍しかった組織横断によるプロジェクトが立ち上がります。その名も「ポストキラミックプロジェクト」(1997年1月発足)です。

―プロジェクトは、全国の汚いトイレへの出張による地道な事前調査から開始

プロジェクトチームを率いた水野治幸(当時はINAXの研究員、現LIXIL R&D本部 生活価値研究所所長)が真っ先に取り掛かったのは、トイレが汚れる原因、すなわち「汚れのメカニズム」を解明することでした。

全国の支社から「汚いトイレがある」と聞きつけては駆けつけ、時には取り寄せ、また洗浄に使う水の成分によっても汚れ方が異なるとわかれば、全国から水をかき集めて調査を行うなど、当面は事前調査の日々が続きました。

―突き止めた“4種のトイレ汚れの要因”と“根本原因”

そして一年後、トイレ汚れの要因が、過剰な掃除による「陶器のキズ」、ヌメリのもととなる「細菌の繁殖」、そして荒れた陶器表面への「汚物の付着」と「水アカの固着」であることを突き止めます。特に汚れの根本原因である「水アカの固着」に関しては、研究の結果、水道水の中に含まれる成分が、水アカとなって陶器表面をざらざらの状態にするというメカニズムが解明されました。元々、衛生陶器の表面は親水性、水になじみやすい特性も有してます。表面が親水性なので、表面に汚物がついても汚物の下に洗浄水が入り込み、汚れを洗い流すというメリットがありますが、一方で、親水性であるが故に水アカが付きやすいといったデメリットがある訳です。「汚れた便器を全国、数百カ所は見た」と語る地道な努力が実った結果でした。

―研究の結果誕生した「プロガード」。ただし、担当者は「当時技術の限界に心残りが...」

こうして1年後に商品化したのが、「水アカの固着」を抑制する「プロガード」(1999年3月)です。これは、抗菌技術「キラミック」を施した陶器表面を、特殊な「プロガード分子」で加工し、水アカの固着を抑制するというものでした。

しかし、技術フロンティアの水野が当時を振り返って「心残り」と語ることがあります。「プロガードの開発には一定の意義があったと自負しています。当時も今も、水アカが固着しないという衛生陶器は他に類を見ず、画期的な技術です。ただ、心残りといえば、当時の技術で「プロガード分子」として応用できるものは撥水性分子しか選択肢になかったことです。撥水性、つまり親水性でないため、衛生陶器本来の良さを一部欠いてしまったのです」

―新たな挑戦を模索するも、開発は難航

技術開発は、さらに次の世代へとバトンタッチされ、新たな局面を迎えます。新チームでは、水野が手掛けた「プロガード分子」とは異なるアプローチで、水アカを抑えつつ同時に表面を「超親水性」にするという方法を模索し始めます。

研究の結果、効果的な分子を割り出すことには成功したものの、その後の開発は難航します。出来上がるのは「超親水性で汚物の汚れは解決できるけれども、水アカがつくもの」か、「抗菌性能や硬度といった従来の陶器の特長を維持できないもの」ばかりという苦悩の日々が続きます。

―ふとしたひらめきからのブレイクスルーで、トイレ汚れ最大の難題を解決

2013年8月、新しい開発者が着任します。それが、今回の「アクアセラミック」の開発に成功した、奥村承士(当時29歳、R&D本部マテリアルサイエンス研究所 所属)です。奥村もまた、歴代の開発者が試みた方法をアレンジし、3年弱の間、1000回以上にものぼるモニタリングを行います。

そもそも、水アカが陶器に固着するのは、陶器の表面に出ている水酸基(-OH)と、水道水に含まれるシリカ(ケイ酸)が化学的に結合してしまうことにあります。前述の「プロガード」は、これを防ぐために水酸基を撥水性の素材で覆うことで、陶器の表面に出ないようにするという技術でした。

奥村も、最初は特殊素材をコーティングする方法からアプローチを重ねましたが、手間など考慮するとコストが10倍以上かかる反面、陶器の質感や耐久性が失われてしまう、という課題に直面することになります。その後も、試行錯誤を繰り返しますが、上手くいかない状況が続きました。

そんななか、ブレイクスルーの契機となったのは、奥村が入社当初に携わっていたある技術でした。奥村は当時、当社の製品にも利用されている繊維強化プラスチック(FRP)の配合・成形技術の研究に携わっていました。この技術を活用し、従来の衛生陶器と特殊物質をなじませ、陶器に一体化させることができれば、汚物汚れを防ぐ“超親水性”の素材ができるのではないか。そんな思い付きを機に、「アクアセラミック」の完成品に向け、研究開発は一気に加速します。

陶器チップを使い、特殊物質の選定、陶器と一体化させるための手段、時間などの微調整を繰り返し、陶器の試作品づくりに取り掛かります。奥村の狙いは的中し、コーティングする手間が省けただけでなく、耐久性も飛躍的にUPしました。

―試作した陶器は数千、便器のモニター試験で食事が嫌になったことも

試作したチップの枚数は、数千枚に上りました。「一枚一枚に、スポイトで水滴を垂らし、親水度を測定するうちに、水滴を垂らした瞬間、見た目でその度合いがどの程度か、直感的に分かるようになった」と奥村は語ります。

「試作品づくりを終えたあと、社内のトイレに試作便器を設置しモニターテストを行いました。用を足した後の便器の中を自動でカメラ撮影し、それをチェックするという日々が続き、今は克服しましたが、便器を見続け始めた当初は食事が嫌になったこともありました」

―完成品を社員に披露、驚きの歓声に成功を確信

完成品のお披露目の舞台は、様々な部署から社員が集まる社内展示会でした。便器内に色のついた油を回しかけ、洗浄水を流すデモンストレーションで、水だけで汚れを浮かせる“親水性”の高さをアピールしました。水の力だけでみるみる汚れが洗い流される様子を見た社員からは「おおお!」と驚きの歓声が上がりました。奥村が「それまでの苦労が一気に報われた」と話る瞬間でした。展示会に出席した外国人スタッフからも同様の反応が得られたことから、世界で勝負できるという確信を持ちました。

■世界から認められた新素材〜「Material ConneXion」の評価

「Material ConneXion(マテリアルコネクション)」は、アメリカ・ニューヨークを本拠地とし、世界中から収集されたマテリアル情報を活かして製品開発や用途開発などのコンサルティングを行う企業です。会員数は現在、企業、研究者、デザイナーなど約36,000名、データベースの利用者数は約100万に及びます。そんな"素材のプロ集団”とも呼ばれる同社に「アクアセラミック」を評価してもらったところ、副社長であるアンドリュー・デント氏をはじめ同社を代表する方々から、高い評価を受けました。
Material ConneXion Tokyo:
http://jp.materialconnexion.com/

「サニタリープロダクトにおける革命的テクノロジーです」

Material ConneXion副社長
アンドリュー・デント氏

Material ConneXion副社長 アンドリュー・デント氏

これまで、汚れを付着させないためには親水性よりも撥水性が重視されてきました。そのほうがザッと流せると考えられた。汚れが浮かび上がってくるのを観るだけで、この素材のよさは伝わってきます。非常に革新的な素材であり、私自身わくわくしました。
抗菌性、硬度にも優れ、短期では油性を含む汚れ、長期で見れば水アカ汚れという両方がこのアクアセラミックの技術で解決できます。親水性を持つ素材はステンレスやファブリック、ガラス、セラミックなどでいくつかありますが、考え方が違います。
私自身の印象として、日本の素材はテクノロジーと伝統、クラフトマンシップの融合が大変にうまいと思っています。美しいだけでなく、そこにハイテクが隠されている。また、人々が困っていることを解決しようとするのが日本のテクノロジーのよさです。アクアセラミックを使ったトイレは、見た目ではわからない素晴らしい機能が隠されている。100年後も買った時のままきれいであること。私はふだん革命的という言葉はなるべく使わないようにしていますが、これはまさにサニタリープロダクトの革命と言えるでしょう。

・ 開発ストーリーは、「MADE By LIXILスペシャルサイト 開発者の声」のコーナーにおいて、アクアセラミック開発者の声ということでもご紹介しています。

MADE By LIXILスペシャルサイト 開発者の声:
http://www.lixil.co.jp/madeby/interview/default.htm

■“水のチカラで、ずっと輝く”世界初の衛生陶器『アクアセラミック』の特長

■トイレの“汚れ”を防ぐ革新的技術

LIXILが、ユーザーのトイレに対する一番の困りごとである「清掃性」の解決に向け開発した、全く新しい衛生陶器『アクアセラミック』。「汚物」と「水アカ」の汚れを同時に防ぐという新たな性能と、「キズ汚れ」「細菌汚れ」という従来の性能をあわせ持つことでトイレの4つの汚れすべてに応えることができる世界初の衛生陶器です。

※2016年3月15日現在 当社調べ。

汚物汚れを水のチカラで浮かして流す“超親水性”

『アクアセラミック』の表面は、水になじみやすい“超親水性”です。陶器表面に付着した汚れの下へ水が入り込み汚れを浮き上がらせます。 この“超親水性”により、少量の洗浄水で、汚物を綺麗に洗い流します。

「水アカ」の固着を防ぎ「便器の黒ずみ」の悩みを解消

『アクアセラミック』では、「水アカ」固着の原因となる、陶器表面の水酸基(-OH)と洗浄水に含まれる水アカ成分(シリカ)の化学結合を防ぐため、陶器表面に水酸基が露出しない構造設計。水アカが固着せず、水アカが起因した「便器の黒ずみ」などの水アカ汚れがなくなります。

使用実験でも水アカは固着しないことが確認され、『アクアセラミック』の技術を採用することで、「新品時の輝きが100年続く」トイレが可能となりました。

<従来の水アカ形成メカニズム>

従来の陶器は、表面の水酸基(-OH)と、洗浄水(H2O)に含まれる水アカ成分「シリカ(SiO2)」が化学結合し、水アカとして固着。そこに汚物やホコリ、鉄分が付着。また細菌が繁殖し黒ずみが発生します。


<アクアセラミックの組成イメージ>

「アクアセラミック」は、親水基(-OH)を露出しない構造にするために「汚物」と「水アカ」に対して防汚機能の役割を果たす特殊な物質を焼き付け、特殊物質を分子レベルで一体化させています。