2017年06月08日
隈研吾監修
「高知県
会期:2017年7月6日(木)〜9月26日(火)
会場:LIXILギャラリー
「
本和紙とコットンペーパーの原料をミックスしたアウテンボーガルト氏オリジナルの手漉き紙。伝統的手漉き和紙である土佐和紙とヨーロッパ伝統のコットンペーパーの原料の割合や漉き方でさまざまな紙が出来る。
用途は美術紙、版画、工作、インテリア等。
LIXILギャラリー企画「クリエイションの未来展」では、2014年9月より日本の建築・美術界を牽引する4人の クリエイター、清水敏男氏(アートディレクター)、宮田亮平氏(金工作家)、伊東豊雄氏(建築家)、隈研吾氏(建築家)を監修者に迎え、それぞれ3ケ月ごとの会期で独自のテーマで現在進行形の考えを具現化した展覧会を開催しています。
「クリエイションの未来展」の第12回目となる今回は、建築家の隈研吾氏監修のもと、「高知県
高知県梼原町は町面積の91%を森林が占め、標高1485mの雄大な四国カルストに抱かれた自然豊かな山間の小さな町です。高知県梼原町と隈研吾氏の関わりは30年以上前にさかのぼり、隈氏初めての木造建築として「雲の上のホテル」を設計したことから始まります。その後「梼原町総合庁舎」、「まちの駅『ゆすはら』」などを設計し、その内装にロギール・アウテンボーガルト氏制作の和紙が使われました。
梼原町の和紙工房
土佐和紙は平安時代の律令細目である「延喜式」に献上品としてその名が記されていることから歴史は古く、江戸時代には「土佐七色紙」として徳川幕府の献上品とされ、明治時代中期には全国一の生産規模を誇りました。恵まれた自然のもとに栄えた土佐和紙は、一軒ごとに異なる種類の紙を漉いており、その品種の豊富さも特徴です。
ロギール・アウテンボーガルト氏はオランダ・ハーグ市に生まれ、アムステルダムのグラフィック・スクールを卒業後、日本の伝統工芸である紙漉き和紙に魅かれて来日。各地の手漉き和紙工房を見学した後に当地に工房を定め、現在まで25年に渡り土佐和紙を制作しています。
今展では、アウテンボーガルト氏の制作する和紙を使い、隈氏がインスタレーションを行います。複数種類の土佐和紙を繋いでギャラリー全体を覆い洞窟のような空間を生み出し、職人の技術を駆使した柔らかくも力強い素材の奥深さを体験して頂きます。
また、アウテンボーガルト氏のオブジェ作品や土佐和紙の紙見本、紙漉き道具や楮、三椏、雁皮などの植物素材も展示する予定です。
ユネスコの世界無形文化遺産にも登録された紙漉き技術による和紙ですが、今展では内外の視点をあわせ持つアウテンボーガルト氏の作品を通して、改めてその魅力を探ります。
楮の木とアウテンボーガルト氏
原料標本
1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。現在、東京大学教授。1997年「森舞台/登米市伝統継承館」で日本建築学会賞受賞、その後「水/ガラス」(1995)、「石の美術館」(2000)「馬頭広重美術館」(2000)等の作品に対し、海外からの受賞も数多い。2010年「根津美術館」で毎日芸術賞。近作に浅草文化観光センター(2012)、長岡シティホールアオーレ(2012)、「歌舞伎座」(2013)、ブザンソン芸術文化センター(2013)、マルセイユ現代美術センター(2013)等。著書に、『自然な建築』(岩波新書 2008)、『小さな建築』(岩波書店 2013)、『日本人はどう住まうべきか?』(養老孟司氏との共著 日経BP社 2012)
僕が高知県の梼原町を初めて訪れたのは1987年になります。当時の東京の建築は“形の建築”で、そうではない建築を模索しているときに、梼原で色々な職人さんや素材と出会えました。多くの職人さんに出会い、自分の知らない技術や素材を教わりました。梼原で建築の奥深さ、豊かさを知り、以降の僕の建築の哲学のベースが作られました。
梼原での仕事の際にロギールさんと出会い、それ以降も協働を続けています。梼原の水と自家栽培している素材から生み出されるロギールさんの和紙は力強く、繊細で、梼原の木と見事な調和をみせてくれます。今回の展示ではロギールさんの和紙をつかった柔らかくも力強い空間を作りたいと考えました。天井や壁に和紙を使い、それらにシワをつける特殊な加工をすることで、和紙でつくられた洞窟のような空間を生み出すことができました。職人の技術を駆使した空間を通して、技術や素材の奥深さ、豊かさを伝えるのが、この展覧会の目標です。
(隈研吾)