2017年09月12日
清水敏男監修
「鈴木基真展 MОD」
会期:2017年10月12日(木)〜12月24日(日)
会場:LIXILギャラリー
《Ghost#1》 2016 Light box with color transparency h57 × 182 cm
©Motomasa Suzuki, courtesy of Takuro Someya Contemporary Art,
photo : Ken Kato
LIXILギャラリー企画「クリエイションの未来展」では、2014年9月より日本の建築・美術界を牽引する4人のクリエイター、清水敏男氏(アートディレクター)、宮田亮平氏(金工作家)、伊東豊雄氏(建築家)、隈研吾氏(建築家)を監修者に迎え、それぞれ3ケ月ごとの会期で独自のテーマで現在進行形の考えを具現化した展覧会を開催しています。
「クリエイションの未来展」第13回目となる今回は、美術評論家の清水敏男氏監修のもと現代美術の作品展「鈴木基真展 MOD」を開催します。
彫刻家 鈴木基真氏は、これまでアメリカ映画に登場する風景をモチーフに、建物や街を独特のスケールに置き換えた木彫刻を制作してきました。一見すると玩具のような愉しい世界ですが、よく見ると映像の光学的な歪みを表現しており、その視覚のズレに気づいた時、わたしたちは感覚をゆさぶられるような不思議な体験をします。
鈴木氏は2017年VOCA奨励賞を受賞しました。その作品はライトボックスによる「Ghost」シリーズです。「Ghost」は、木構造と粘土の塑像で玄関ポーチや窓を制作したのち、写真撮影をして、140cmほどのライトボックスに仕立てたものです。光を背後から受けて薄闇に浮かぶドアや窓は、鈴木氏の特徴であるざっくりとしたテクスチャに乱反射して揺らいで見えます。まるで灯りが瞬き、家人の気配や話し声まで聞こえてくるような不思議なリアリティです。
展覧会タイトルの「MOD」とは、「Modification(変更)」の最初の3文字で、PCゲームにおいてユーザーが自由にゲームの改造や追加を行うことを言います。いつも鈴木氏の作品の風景には人物が登場しませんが、そのことによってわたしたちは自らを主人公に置き換えて自由に想像を膨らませることができます。
本展ではライトボックスシリーズ「Ghost」 3点のほか、新作の木彫刻 7 点を加えた約 10 点を展示します。
《Ghost #1》 2016 Light box with color transparency h57× w182cm
《Ghost #2》 2016 Light box with color transparency h61× w121.5cm
©Motomasa Suzuki, courtesy of Takuro Someya Contemporary Art, photo: Kei Okano
《Ghost #2》
2016
Light box with color transparency
h61 × w121.5cm
photo : Ken Kato
*1F展示は11月5日(日)〜11月26日(日)を除く
本展監修者の清水敏男氏と本展出品作家の鈴木基真氏によるトークを行います。
着色した小さな木片をつなげ、視覚的に粗いデジタル画像のように風景をつくります。
※この他にもイベントを予定しております。順次ホームページでご案内いたします。
撮影:Herbie Yamaguchi
TOSHIO SHIMIZU ART OFFICE代表取締役、学習院女子大学・大学院教授、キュレーター、美術評論家。
1953年東京生まれ。ルーヴル美術館大学修士課程修了。東京都庭園美術館、水戸芸術館現代美術センター芸術監督を経て、現在は展覧会やアートイベントの開催、パブリックアートのプロデュースを中心に活動している。主な活動に、「上海万国博覧会日本産業館トステムブース・アートディレクション」、「東京ミッドタウン・アートワーク」、「豊洲フロント・アートワーク」、「名古屋ルーセントタワー・アートワーク」、「いわて県民情報交流センター・アートワーク」、「ミューザ川崎・アートワーク」、「オノ・ヨーコ BELL OF PEACE 平和の鐘(学習院女子大学)」、「THE MIRROR」、「大手町フィナンシャルシティ」がある。
この度の「クリエイションの未来展」は鈴木基真を取り上げる。鈴木基真の木彫は以前から関心があったが、VOCA展の出品作品『Ghost#4』を見て新しい視覚体験の可能性を感じたことが本展覧会の企画の発端である。
その作品は自作の彫刻を写真に撮り、それをライトボックスで見せるというものだった。その自作の彫刻とは家の玄関口を木構造に粘土で仕上げたもので、外は薄暗い夕闇に包まれているのだが、玄関のドアの向こうに暖かい室内が見える。
この作品は現代人の視覚体験を的確に表現している。まずライトボックスで写真を見せるという行為についていえば、透過光の画面は私たちの現在の視覚体験そのものなのだ。
私たちは今小さな液晶画面やLED画面を見ることに毎日多くの時間を割いている。人類はこれまで反射光を見て数百万年生きてきたが、ここ数十年の間に透過光の画面を見ることになってしまった。鈴木がライトボックスで写真を見せることをしたのは無意識的か意識的か私たちの視覚体験の急激な変化を「視覚化」している。
しかしライトボックスはジェフ・ウォールがすでに1970年代末に制作している。 こうしたジェフの作品とは異なり、同じライトボックスを使いながら鈴木の作品は全く異なる視覚体験をベースにしている。もともと鈴木はジェフのように映画を参照しながらも、ジェフとは異なり「凍った映画」を作るのではなく映画というフィクションを彫刻に変換することで映像作品の中に入っていくことを試みて来た。
こうした鈴木の試みは、『Ghost#4』で新しい段階に入った。ジェフはライトボックスを映画の代替物として使ったが、鈴木はパソコンやスマホの液晶画面の透過光と同じ視覚体験の時代の子である。ただしこの視覚体験は単に物理的なことのみを指すのではない。映画と決定的にことなることは、それがデジタル画像でありインターネットに接続され相互性を持っていることである。
『Ghost#4』における相互性は限定的かつ原初的な段階であるが、例えば鈴木はその相互性を手作り感の強い粘土で彫刻をつくることで不完全ながら実現しようとしているのではないだろうか。つまり鑑賞者は触覚的に画面に入り込む錯覚を覚えるのだ。それは前述のように鈴木が彫刻において実現した空間感覚だが、『Ghost#4』はそれを平面において試みた作品といえるだろう。しかし作品の中に入っていく作品構造については、実はもっと先がある。
今回の展覧会の題名『MOD』はModificationの最初の3文字をとったものだ。これはPCゲームでゲームのユーザーが勝手にゲームの改造や追加をすることであるという。ゲームのユーザーがゲームの外にいてゲームを楽しむのではなくゲームの中に入っていく。
鈴木が今回試みるのは彫刻家としてMODに挑むことである。つまり今回の展示で鈴木は作品のなかに入り込むという構造について語るのである。私たちはその後を追って作品のなかに入り込むことになる。
ここでどうして私たちは作品のなかに入り込もうとするのかを考えたいが、紙数が尽きてきた。人間とは情報を求める動物であるが、他の動物と決定的に異なるのはフィクションの情報をつくる能力を備えていることだとユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』で述べている。今は誰もがフィクションを作りそれをインターネットで相互につなげることができる時代なのだ。鈴木のそして私たちの試みは端緒についたところである。
画像上段:《wall,roof,window#2》 2016 Camphor wood, acrylic paint h50.5xw36xd25cm
中段:《half structures#1》 2016 Camphor wood, acrylic paint h31.5×w44.5×29 cm
下段:《half structures#2》 2016 Camphor wood, acrylic paint h79×w61×39 cm
3点すべて ©Motomasa Suzuki, courtesy of Takuro Someya Contemporary Art, Photo: Kei Okano
《hanging on the ground》 2016 acrylic on wood h2570 × w1000 × d330cm
©Motomasa Suzuki, courtesy of Takuro Someya Contemporary Art, Photo: Ken Kato