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国際NPOと協働で、
水に関する環境教育活動を実践中
〜現地の子供たちと水の大切さを学びました〜
2012年2月16日-21日

2012年03月21日

 株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長:藤森義明)と現地子会社INAX VIETNAM Co.,Ltd.(以下VINAX)は、2007年からベトナム社会主義共和国(以下ベトナム)で、現地の子どもたちを対象に、「水に関する環境教育活動」を行なっています。現在は、「Bridge Asia Japan」(以下BAJ)と「Seed to Table」(以下STT)の2つの国際NPOと協働で活動を推進しています。

 LIXILは、1996年に当時のINAXがVINAXを設立して以来、ベトナムで水洗トイレや洗面器などを製造販売し、順調に売上を伸ばしてきました。現在INAXブランドの衛生陶器はベトナムトップシェアで、タイルや水栓金具の事業も進めています。また、子会社のアメリカンスタンダード アジア・パシフィックもベトナムで事業を行なっています。2013年には、サッシの製造工場も設立予定です。
 一方、ベトナムの国情は、急激な経済発展にともない、貧困層と富裕層の格差拡大や公害問題、衛生問題、子どもの人権保護問題などが生じ、社会的制度が追いつかない状況にあります。LIXIL(当時のINAX)は、ベトナムの発展とともに現在の地位を築いてきた企業として、少しでもベトナム社会の役に立ちたいと考え、2007年から実績ある国際NPOと具体的な環境教育活動を開始しました。「水」をテーマに、ベトナムの今後を担う子どもたちにとって本当に必要とされる教育の支援を目指しています。単なる資金援助活動にとどまらず、オリジナル教材「水について考え、調べてみよう」を支給し、LIXILのスタッフが現地の教壇に立ち、ベトナムの社会情勢や環境に沿った内容と提案で、継続的に環境教育を実施しています。

 今回、LIXIL統合後の第2回目となる環境教育活動をベトナム中部フエとハノイ北部ホアビン省で実施しました。2月16日(木)〜2月21日(火)の6日間に渡って、BAJやSTTのスタッフとともに現地で活動した様子を紹介します。

 目  次
■ 2月17日 BAJとともにフエ近郊の農村での環境授業
■ 2月18日 古都フエ市トゥイビュウ地区のエコツアーの試行に参加
■ 2月19日 STTとともにハノイ北部山岳地域で2度目の環境授業
■ 2月20日 ホアビン省ディックザオ村での意見交換会
■ ベトナム フエ・ハノイ訪問の行程概要
■ ベトナム環境教育活動の考え方とこれまでの歩み


■ 2月17日 BAJとともに フエ近郊の農村での環境授業

 ベトナム中部に位置するフエ市は、ベトナム最後の王朝グェン王朝のあった古都です。フォン川沿いには王朝時代の名残のある街並みが広がり、国内外からの観光客でにぎわっていますが、中心部から少し離れた地域では、自然の恵みを活かした昔ながらの農家の暮らしが続いています。しかし、急速な経済成長を背景に、このような生活も日に日に失われつつあります。BAJでは、地域に残る自然や生活の知恵を守り受け継いでいくために、2004年から子どもたちと地元の農家を訪問し、生活の様子の観察や土・水の調査を通して地域の自然や暮らしの価値を見直し、理解を深める活動を行っています。

 「水の環境教育活動」第1日目となる17日は、BAJスタッフのトエさん、片山さん、新石さんとともに、フエ市近郊のフーヴァン郡ヴィンタイ地区、フーロック郡ヴィンハイ地区で環境授業を行いました。この地域は、BAJが最近活動を開始した地区で、フォン川下流に位置し、ベトナム最大のタムザーンラグーンに面しています。活動にはヴィンタイ地区の子どもたちに加え、フエ市トイビュウ地区の子どもたちや大学生ボランティアも参加しました。地区をまたいで実施することで、子どもたちに交流の場を提供し、お互いの地域や環境に興味を持ってもらうことも活動のねらいです。

 ヴィンタイ地区では農家を訪問し、農業用水、飲み水、雨水など農家で使っている様々な水をその場で採取し、水質調査を行いました。簡易の水質調査キット「パックテスト」を使って、水のPH値やCOD値、リンや窒素などの含有量を測り、農家の用途に合わせた水の使い方を知るとともに、地域の水質を科学的に確認しました。実験後は、紙芝居サイズの大きなテキストを使って環境授業を行い、水は地球を循環する貴重な資源あることを学習しました。科学的な実験と基本的な水の話を並行して行うことで、水の大切さについて総合的に学んでいきます。

 また、ヴィンハイ地区でも農家を訪問し同様の水質調査を行いました。地域の複数の農家で調査を行なうことによって、暮らし方や水の使い方の類似点や相違点を発見し、地域の特性について知識や情報を蓄積していくことができます。また、実験を重ねることで、子どもたちの水質調査のスキルも向上していきます。さらに、ヴィンハイ地区では、区議会副議長と地域の水事情について意見交換も行いました。副議長から、地域の井戸が夏に渇水状態になること、雨季には洪水で井戸が水没し水質が悪化することなど、水の問題について話を聞くことができ、LIXILスタッフはもちろん、大学生ボランティアにとっても良い学びの機会になりました。

活動場所へ移動する子どもたち


近くを流れる川水の水質を「パックテスト」で測定


紙芝居サイズのテキストを使った授業

■ 2月18日 フエ市トゥイビュウ地区で、BAJのエコツアー試行に参加

 フエ市トゥイビュウ地区は、古都フエ市の中心部から約7kmにあるザボンが有名な地域です。BAJは、継続した活動を通して、この地域の方々と厚い信頼関係を築いていますが、これまでの取り組みに加え、新しく「エコツアー」を計画しています。「エコツアー」は、国内外の観光客に地元の農家の昔ながらの暮らしを理解してもらうとともに、受入れ側の農家の人たちにも、先祖から受け継いできた“暮らしの価値”を再発見してもらうことを目的としています。
 2日目の18日は、この「エコツアー」の試行にトゥイビュウ地区の子どもたちや保護者と一緒に参加しました。ツアーでは、農家の方から自分の庭の地域特有の植生について話を伺い、伝統料理づくりを体験。庭で放し飼いにしている鶏の卵を探すゲームでは、参加した子どもたちが卵探しを楽しみながら、家畜の育て方や家畜の生態について、自然に知識を得、興味を持っていきます。このようにNPOの新しい試みに積極的に関ることで協力関係を深め、また、参加者の反応を確かめることで、LIXILスタッフも授業の題材や進め方について、スキルを高めていきます。


バナナの皮を使った料理の体験

農家の庭で見つけたたまご

地域の食材使用した料理の紹介と試食

■ 2月19日 STTとともに ハノイ北部山岳地域で2度目の環境授業

 フービン村は、ハノイから北へ車で約3時間のホアビン省タンラック郡にあり、約820世帯、約3,900人が12の集落に暮らしています。STTでは2009年からホアビン省の農村を中心に、食、農、地域づくりをテーマに、減農薬や合鴨農法、環境教育などに取り組んでおり、フービン村もそのうちのひとつです。

 LIXILは、昨年夏にフービン村で初めて環境授業を行いましたが、2回目となる今回は、前回参加できなかった青年団と小中学生のあわせて72名が、10集落から参加しました。

 午前中はオリジナルテキスト「水について考え、調べてみよう」を使った座学です。地球の面積の約70%を海が占め、地球上にはたくさん水がありますが、飲み水など生活に使える水は、実はほんのわずかしかないなど、地球の水についての基本的な知識や、手や身体を清潔にすることで病気が予防できることなど、ベトナムの実情にそった内容で生活の中の“水”について学びます。暖房設備のない冷えきった会場で約2時間半の授業でしたが、子どもたちは、テキストを熱心に読み、問いかけにも真剣に答えてくれました。自分たちの暮らしと照らしあわせながら、水が有限で貴重な資源であることを学んでいきます。

授業を行った会場(フーヴィン村役場)


熱心にテキスト読む子供たち
 午後は集落ごとにグループに分かれて、各集落であらかじめ採取してきた飲み水や農業用水の水質を、調査キット「パックテスト」を使って確認しました。次に、ペットボトルに石、砂、土を入れて手作りの「ろ過装置」を作り、ろ過実験を行いました。この実験は、雨水などが地中にしみ込む過程で、汚れた水がろ過されていくという自然の仕組みの一部を簡易化して再現するものです。石や砂を使ったろ過そのものは、ベトナムでも珍しくはないようでしたが、泥水がペットボトルのろ過装置を通って透明な水になって出てくる様子を実際に目で見て確認できたことは、青年にも子どもたちにとっても新鮮な体験だったようで、歓声もあがっていました。この実験の講師を務めたVINAXの総務部長ソンさんは、「フービン村の子どもたちは、自分たちで道具を作ることに慣れているので作業が手際よく、実験も順調に進んだ」と、感心していました。
上:石、砂、土を順番に入れてつくった ろ過装置        右:実験の様子

この環境授業にはベトナムの報道関係者も同行しており、STTの方や参加した青年団、子どもたちにインタビューしていました。日本企業がこのように現地に入り込んで、ベトナムで環境教育活動を支援していることは、現地メディアにも注目されており、新聞などで紹介されることで、環境や水に対する関心の輪がさらに広がっていくことを願っています。

現地メディアからのインタビューに答えるSTTの伊能代表

■ 2月20日 ホアビン省ディックザオ村での意見交換会

 ディッグザオ村はフービン村の近くに位置しており、約840世帯、約3,600人が14の集落に暮らしています。この村では近年、ゴミの廃棄や水源の汚染問題が浮上してきており、村の代表や青年団が、この問題解決にLIXILの環境教育を活用できないかと関心を持ったことから、今回の意見交換会が計画されました。
 村の近況についてヒアリングすると、生活様式が急速に近代化している一方で、人びとの知識や情報がその変化に対応できていないことが伺えました。例えば、農産物などを包むのに使われていた植物の葉は、用が終ると庭や道端で土に還っていましたが、包装がビニールに代わり、分解されないゴミとしてビニールが放置される事態が起きています。また、村の収入源であるトウモロコシ栽培で除草剤を使うことにより、土壌が汚染されたり、空容器を大切な水源近くで無造作に洗ってしまうなど、水質汚染の心配もでてきています。ビニールや薬剤など新しく生活の中に入り込んできた便利な“モノ”について、知識を深め、適切に対処することが求められています。正しい理解が水の汚染を防止し、生活環境を守ることにつながります。LIXILが役に立てることを、地域の人たちとともにひとつずつ見つけ、支援を広げていきたいと考えます。

 午後は、ハノイに移動しVINAXを訪問しました。STT伊能代表は、VINAX伊藤慎二社長に2011年度のSTTの活動を報告し、今後の活動について意見交換しました。このようなミーティングは毎年行なわれており、相互理解を深め、さらに実践的な協働のあり方について話し合う良い機会となっています。

 今回の活動を通じて、子どもたちは身近なところで何が起きているのか、そして何を見直さなければならないのかといった問題意識を強く持っていることを、あらためて感じました。また、活動を継続してきたことで、ベトナム全体が抱える問題だけではなく、地域特有の課題も見えてきました。得られた知見をもとに、より地域に根ざした実践的な活動を今後も続けていきます。


【ベトナム フエ・ハノイ訪問の行程概要】
2月16日 LIXILスタッフ ベトナム フエ到着
2月17日 フーヴァン郡ヴィンタイ地区、
       フーロック郡ヴィンハイ地区で環境授業・実習実施
2月18日 フエトゥイビュウ地区でエコツアーに参加。
       ホアビン省に移動
2月19日 ホアビン省フービン村で環境授業・実習実施
2月20日 ホアビン省ディックザオ村でのヒアリング

環境教育活動参加者
 フーヴァン郡ヴィンタイ地区、フーロック郡ヴィンハイ地区
 環境授業・実習(午前の部、午後の部) 約35人(延べ)
 フエ市     エコツアー参加者 約30人
 ホアビン省   フービン村での環境授業・実習 72人

BAJ同行者 ブリッジ エーシア ジャパン
         ベトナム事務所 Huynh Hue Tue(フィン ホゥイ トエ)
                   片山恵美子
         東京本部     新石正治

STT同行者  Seed to Table代表 伊能まゆ

LIXIL講師   環境経営推進部 小野聡志、熊崎千恵美

VINAX講師  総務部  Khuat Duy Son(グアット ズイ ソン)


■ ブリッジ エーシア ジャパン (BAJ)  http://www.baj-npo.org/

 1993年設立のBAJは、その名の通りアジアと日本の架け橋となって国際協力を行っています。ベトナムでは貧困層の子どもたちへの支援を中心に行い、環境教育については2002年ごろから準備を始め、ベトナム中部のフエ市で2004年から子どもたちへの教育を本格始動しています。プラスチックなどの有価物回収や、生活排水を直接川に流さないように浄化槽を設置するなど、BAJの実践的なサポートにより、現地の子どもたちが自ら考え行動する活動が広がっています。


■ Seed to Table (STT)  http://seed-to-table.org/

 STTは、2009年7月設立の日本のNPO法人で、ベトナムの人々と共に、地域の種、自然、そして文化を守り、自給と収入を改善するための経済基盤を整えながら、家族や友人と楽しく暮らしていけるようになることを目指しています。農法などの地域の知恵を記録し伝えることをはじめ、人々の出会いと話し合いの場をつくり、次世代を担うリーダーを育てながら、食と農と地域づくりに取り組んでおり、ハノイ北部ホアビン省はその活動の中核拠点です。



【ベトナム環境教育活動の考え方とこれまでの歩み】

 2006年、当時のINAX(現LIXIL)が、単に資金や物資の提供ではなく、現地の人に喜んでもらえ、未来につながる活動を支援するパートナーを探し、2007年から実績あるNPOと具体的な活動を開始しました。INAXブランドならではの蓄積を活かし「水」をテーマに、ベトナムの今後を担う子どもたちにとって本当に必要とされる教育の支援を目指しています。それは、「水が汚れるからゴミを川に流さないようにしよう」ではなく、「何が原因で川が汚れるのかを理解して、どうしたらよいかを子どもたち自身が考える」ための教育です。LIXIL統合後も、この考えに基づき、BAJ、STTとVINAXの現地スタッフとともに、現地の実情にそった、実践的な環境教育を継続しています。

主な活動記録

2007年 BAJ、セーブ・ザ・チルドレン ジャパン(SCJ)と活動を開始 (3ヵ年契約)
オリジナル教育テキストの作成 (4月)
VINAXスタッフの講師養成教育、政府機関・学校関係者への説明実施
ハノイ北部イエンバイ、フエで学校関係者および子どもたちへの環境教育開始 (6月〜8月)
2008年 エコプロダクツ国際展(ハノイ)にイエンバイやフエの子どもたちを招待。VINAX工場見学 (3月)
イエンバイ、フエで環境教育実施 (6月)
イエンバイ、フエ、ホーチミン、クイニョンで環境教育実施 (12月)
2009年 イエンバイ、フエ、ホーチミンで環境教育実施 (7月)
2010年 BAJ、STTと活動を開始フエ、クイニョンで環境教育実施。
INAX VIETNAM TILE Co.,Ltdのタイル工場見学 (1月)
ホアビン省ナムソン村、フエ、ホーチミンで環境教育実施 (7月)
2011年 ホアビン省ナムソン村、フエ、ホーチミンで環境教育実施 (1月)
ホアビン省フービン村、フエ、ホーチミンで環境教育実施 (7月)
ナムソン村住民による活動報告とVINAX工場見学 (7月)