2013年04月30日
株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長:藤森義明)と子会社LIXIL INAX VIETNAM Corporation(以下LIXIL VIETNAM)は、ベトナム社会主義共和国(以下ベトナム)で2007年から、現地の子どもたちを対象に「水に関する環境教育活動」を行っています。現在は「Bridge Asia Japan」(以下BAJ)と「Seed to Table」(以下STT)の2つの国際NPOと協働で活動を実践しています。
ベトナムでは急激な経済発展に伴い、貧困層と富裕層の格差拡大や公害問題、衛生問題、子どもの人権保護問題などが生じ、社会的制度が追いつかない状況にあります。ベトナム国内での衛生陶器トップシェアをもつLIXIL(当時のINAX)は、ベトナムの発展とともに現在の地位を築いてきた企業として、少しでもベトナム社会の役に立ちたいと考え、実績ある国際NPOと2007年から具体的な環境教育活動を開始しました。水回り製品を扱う企業としての蓄積を活かし、「水」をテーマに、ベトナムの今後を担う子どもたちにとって本当に必要とされる教育の支援を目指しています。単なる資金援助活動にとどまらず、オリジナルテキスト「水について考え、調べてみよう」を使って、LIXILスタッフが現地の教壇に立ち、ベトナムの社会情勢や環境に沿った内容と提案で、継続的に環境教育を実施しています。
今回、ベトナム北西部ホアビン省と中部フエでの環境教育活動のほか、ベトナム南部にある現地タイル工場で工場見学を行い、子どもたちや国際NPOとの交流を深めました。3月9日(土)〜3月15日(金)の7日間にわたって、BAJ やSTTのスタッフとともに現地で活動した様子を紹介します。
目 次
ホアビン省はベトナム北西部、ハノイから約80kmに位置する山岳地帯で、いくつかの少数民族が独自の言語や伝統習慣を継承しながら生活しています。ディックザオ村は、ホアビン省タンラック郡に位置し、約840世帯、約3,600人が14の集落に暮らしています。昨年7月に続いて二度目となる今回の水の環境授業には、前回参加できなかった子どもたちや青年団のメンバー、計67名が参加しました。
熱心に授業を聴く子どもたち
午前中は、LIXILスタッフによるオリジナルテキスト「水について考え、調べてみよう」を使った座学を行いました。まず、地球上に大量に存在する水のうち、実際生活に使えるのはほんのわずかであることや、地球規模で水は循環しているといった、科学的な視点での水の基本知識を教えます。その後、水の汚染による不衛生な環境が健康におよぼす影響について説明し、なぜ水をきれいに保つことが重要なのかということを根底から理解してもらった上で、ゴミの分別や堆肥化など、暮らしの中で活用できる知恵や工夫を紹介していきました。
午後は集落ごとに分かれて、あらかじめ採取してきた井戸水や川の水を使った、ろ過実験と調査キット「パックテスト」による水質調査の実習を行いました。2007年から同活動に携わっているLIXIL VIETNAMのソンが今回も講師に加わり、実習手順を子どもたちに説明しました。まず、ペットボトルや石、土で作ったろ過装置で汚れた水のろ過実験を行ったところ、子どもたちは、ろ過装置を通って水が透明になっていく様子を興味深そうに観察していました。次に、水の汚れ度合いを薬品の発色変化で測定する簡易キット「パックテスト」による水質調査を行いました。調査結果からは、川の下流に住む集落の水が、上流に比べて汚染が進行していることが分かり、上流の生活排水による影響が示唆されました。LIXILは今後も調査キットを現地に提供し、各集落で水質の定点観測の継続を支援する予定です。
LIXILとSTTのホアビン省での環境活動は、今回の授業を合わせて参加人数が延べ500名を超えました。ホアビン省では、人口増加や生活様式の急速な近代化による、ゴミの廃棄や水源汚染の問題を抱えていますが、本活動により環境に対する正しい知識を持つ住民が確実に増えています。正確な知識を身に付けることで、自分たちの健康や自然環境を守り、問題の解決へと導こうとする人びとへの支援を、今後も継続してまいります。
ろ過実験の説明をするLIXIL VIETNAM
ソン(右)とSTT 伊能さん(左)
パックテストの様子
ベトナム中部にあるフエは、その建造物群が世界遺産に登録されるなど、国内外の観光客でにぎわう古都として有名です。また観光だけでなく、フエ近郊では農業も盛んです。BAJは、貧困地域の人びとの環境改善に取り組むとともに、農村部で有機農法の支援や地域づくりの活動を行っています。今回、フエの中でもBAJが特に住民と厚い信頼関係を築いているトゥイビェウ地区と、隣接するトゥイスワン地区で、伝統を守りながら地域社会を活性化させる取り組みを視察しました。また、ホーチミンの子どもたちを対象とした工場見学も開催しました。
BAJは、地域の伝統文化や自然環境の保護を啓発し、その魅力を発信していくための仕組みづくりとして、農村体験プログラムの推進を行っています。国内外の観光客に、地域の特産物や地元農家の昔ながらの暮らしを理解してもらうとともに、住民自身が地元の良さを再発見し、誇りを感じてもらうことが目的です。
そのプログラムの一環であるトゥイビェウ地区の「農村ツアー」を、BAJスタッフとともに体験してきました。トゥイビェウ地区では過去に、BAJが企画した「エコツアー」を試行したことがありますが、今回は初めて住民たちがツアーの企画を担当。観光客に知ってもらいたい地域の魅力を探すことから始まり、コースの決定や訪問農家へのアポイント等、全て地元の人びとが主体となって進めてきました。
「農村ツアー」では、トゥイビェウ地区特産品であるザボン*や生姜の栽培農家を訪問したほか、世界遺産や地元の名所を回りました。ザボン農家では、川が氾濫した後に上流から流れてくる肥えた土を利用していることなど、農薬に頼らずに自然の力を利用した農法の大切さを伝えていました。どの地点でも、地元住民が自信を持って自身の暮らしや文化を紹介しており、地元の魅力を再認識し、誇りを持つ姿を見て、人びとの成長を感じました。
*ザボン・・・ミカン科では最も大きくなる種類の柑橘系の果物。
コースに組み入れた世界遺産の一部、龍珠廟
栽培方法を説明するザボン農家の方
ツアー後には食事会が開かれ、特産の野菜・豚肉で作った料理を囲みながら地元の人びととの交流を楽しみました。食事会の後には、LIXILスタッフが改めて水や自然環境をきれいに保つことの大切さを説明し、参加者全員でその意思を共有しました。
またこの日は、フエの地元テレビ局も同行し、ツアーの様子について取材しました。このような報道を通じて、現地での環境に対する関心がさらに高まることを期待しています。
ツアー後の食事会の様子
現地テレビ局の取材を受けるLIXILスタッフ
トゥイビェウ地区の隣にあるトゥイスワン地区では近年宅地化が進み、隣家同士の距離が近くなっており、家畜の糞尿による悪臭や河川の汚染が問題になっています。BAJではこの問題を解決するために、「バイオガスダイジェスター」の導入を推進しています。「バイオガスダイジェスター」は、豚の糞を発酵させて生成したメタンガスを、家庭用エネルギーとして自宅の給湯器や家畜の餌の煮炊き等に利用する仕組みです。糞尿の河川や周辺地域への流出を防いで悪臭も減少させるとともに、発酵後の消化肥は、液肥として畑に再利用が可能です。
(左上)発酵槽の上部
(左下)発酵槽内部は人がすっぽり入る大きさ
(写真は施工途中の様子)
(右)BAJが推進する「バイオガスダイジェスター」の仕組み:
家畜の糞尿を発酵槽内で発酵させて生成したガスをエネルギーとして、調理用コンロや給湯器等に利用する。
今回、実際に設置している農家に話を伺ったところ、煮炊きに使う薪の確保に費やす時間と労力が大幅に減ったそうです。その結果、家畜の飼育頭数や栽培物の種類・面積の拡大などが可能になりました。余った時間はさらに、地元の食材を使った加工品の生産にも活用されています。観光客や健康志向のフエの住民向けに、蜂蜜やハーブティー、果実酒などの販売を開始しており、農家の所得増加に繋がっています。
このような、自然の恵みと人びとの知恵を使った環境や生活の改善を、今後もBAJとともに支援していきたいと考えています。
滞在6日目となる3月14日には、ホーチミン・ゴイサオ学校の中学2年生120名にBAJIKO教室(ばじこ教室。BAJが運営する科学・工作・環境問題を学ぶ教室の名称)の児童5名も加えて、タイルの製造を行っているLIXIL INAX Saigon Manufacturing Co., Ltd. (以下LIXIL SAIGON)に招待し、工場見学を開催しました。ゴイサオ学校では2年前にも環境教育を実施しましたが、この授業の後も子どもたちは自主的な環境活動を継続してきました。工場見学の前に、その活動の成果報告会が行われ、LIXIL SAIGONの現地スタッフが、発表に対してコメントや質疑応答をする光景が見られました。
子どもたちによる成果発表
工場見学では、現地人スタッフが先導して各工程を紹介。「タイルは何年くらい使えますか?」「生産工程で一番大変なことは何ですか?」といった数多くの質問に回答していました。このように子どもたちと接することで、LIXIL SAIGONのスタッフもまた刺激を受け、日々の仕事や環境に対する意識が向上していきます。またLIXIL SAIGON副社長 の波多野は、「LIXIL SAIGONではベトナムの山で採取した土砂や、ベトナムのエネルギーを使って生産しているので、この国の環境を守るために尽力しなければならない」ということを強調していました。
その後の環境授業では、水質汚染や水をきれい保つ方法などに加え、日本での公害に関する話題も紹介しました。急激な発展による公害問題に直面しているベトナムの人びとにとって、日本での問題解決の方法を共有することは、非常に有益な機会となったようです。この日の様子は、取材に来ていた現地の新聞にも取り上げられました。
今回の活動を通じて、現地の人や子どもたちが、環境への問題意識を強く持っていることを改めて感じるとともに、地域特有の課題も見えてきました。またこれまでの活動が、少しずつですが確実に、現地に定着しているのを随所で実感することができました。今後も現地の人びとが環境問題に関心を持ち、自発的に行動できるよう、地域に根ざした活動を継続し、ベトナム社会への貢献を目指してまいります。
子どもたちに生産工程を説明する
LIXIL SAIGONの現地人スタッフ
現地の新聞社に取材を受ける波多野(右)
3月9日 | LIXILスタッフ ベトナム ハノイ到着 |
3月10日 | ホアビン省ディッグザオ村で環境授業・実習実施 ハノイへ移動 |
3月11日 | LIXIL VIETNAMで活動報告 フエへ移動 |
3月12日 | フエ トゥイビェウ地区で農村ツアー・産地直送販売活動見学 |
3月13日 | フエ トゥイスワン地区の農家・加工品販売所訪問 ホーチミンへ移動 |
3月14日 | ゴイサオ学校の生徒・BAJIKO教室の子どもたちによる活動成果発表会、LIXIL SAIGON工場見学 |
環境教育活動参加者
ホアビン省 | ディッグザオ村 | 環境授業・実習 | 67名 |
フエ | トゥイビェウ地区 | 農村ツアー ボランティア |
34名 18名 |
ホーチミン | ゴイサオ学校・ BAJIKO教室 工場見学 | 125名 |
BAJ同行者
Bridge Asia Japan
ベトナム事務所 | Huynh Hue Tue(フィン ホゥイ トエ) 片山恵美子 |
東京本部 | 伊藤祥子 |
STT同行者
Seed to Table代表 | 伊能まゆ |
ベトナム事務所 | Doan Thi Toan(ドアン ティ トアン) |
LIXIL講師
CSR・環境経営推進部 | 芦田亜紀、蓼沼亜沙子 |
LIXIL VIETNAM講師
総務部 | Khuat Duy Son(グアット ズイ ソン) |
■ Bridge Asia Japan (BAJ) http://www.baj-npo.org/
1993年設立のBAJは、その名の通りアジアと日本の架け橋となって国際協力を行っています。ベトナムでは貧困層の子どもたちへの支援を中心に行い、環境教育については2002年ごろから準備を始め、ベトナム中部のフエで2004年から子どもたちへの教育を本格始動しています。プラスチックなどの有価物回収や、生活排水を直接川に流さないように浄化槽を設置するなど、BAJの実践的なサポートにより、現地の子どもたちが自ら考え行動する活動が広がっています。
LIXILは、2007年からBAJとともにホーチミンやフエの子どもたちへの環境教育活動を行っています。
■ Seed to Table (STT) http://seed-to-table.org/
STTは、2009年7月設立の日本のNPO法人で、ベトナムの人びとと共に、地域の種、自然、そして文化を守り、自給と収入を改善するための経済基盤を整えながら、家族や友人と楽しく暮らしていけるようになることを目指しています。農法などの地域の知恵を記録し伝えることをはじめ、人びとの出会いと話し合いの場をつくり、次世代を担うリーダーを育てながら、食と農と地域づくりに取り組んでいます。ベトナム北西部ホアビン省はその活動の中核拠点です。
LIXILとSTTの協働活動は、2010年、ホアビン省ナムソン村での環境授業からスタートし、その後隣接するフービン村、ディックザオ村と、活動地域を広げています。
LIXILグループの水回り事業では、アメリカンスタンダードブランドの衛生陶器が最初にベトナム市場へ進出しました。1996年にホーチミンで製造販売をスタートし、翌年には、INAXブランドの衛生陶器もハノイで製造販売を開始、現在ではこの2ブランドでベトナム国内シェアNo1の地位を築いています。2010年には水栓金具工場も稼動し販売を開始、さらに2012年6月には、今後の成長が期待される電気温水器市場にも進出しました。
その他、建材事業の分野では、2008年からモザイクタイルを中心とした乾式外装タイルの製造販売を行っています。今年秋には住宅用サッシ工場の稼動も予定しており、今後もベトナム国内における事業の拡大を推進していきます。
2006年、LIXIL(当時のINAX)が、単に資金や物資の提供ではなく、現地の人に喜んでもらえ、未来につながる活動を支援するパートナーを探し、実績あるNPOと2007年から具体的な活動を開始しました。水回り製品を扱う企業としての蓄積を活かし「水」をテーマに、ベトナムの今後を担う子どもたちにとって本当に必要とされる教育の支援を目指しています。それは、「水が汚れるからゴミを川に流さないようにしよう」ではなく、「何が原因で川が汚れるのかを理解して、どうしたらよいかを子どもたち自身が考える」ための教育です。この考えに基づき、BAJ、STTとLIXIL VIETNAMの現地スタッフとともに、現地の実情に沿った、実践的な環境教育を継続しています。
主な活動記録
※1 現 LIXIL INAX VIETNAM Corporation
※2 現 LIXIL INAX Saigon Manufacturing Co., Ltd.