2013年10月03日
住まいと暮らしの総合住生活企業である株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長: 藤森義明)と子会社LIXIL INAX VIETNAM Corporation(以下LIXIL VIETNAM)は、ベトナム社会主義共和国(以下ベトナム)で2007年から、現地の子どもたちを対象に「水に関する環境教育活動」を行っています。現在は「Bridge Asia Japan」(以下BAJ)と「Seed to Table」(以下STT)の2つの国際NPOと協働で活動を実践しています。
ベトナムでは急激な経済発展に伴い、貧困層と富裕層の格差拡大や公害問題、衛生問題、子どもの人権保護問題などが生じ、社会的制度の整備が追いつかない状況にあります。ベトナム国内での衛生陶器トップシェアをもつLIXILは、ベトナムの発展とともに現在の地位を築いてきた企業として、少しでもベトナム社会の役に立ちたいと考えています。単なる資金援助活動にとどまらず、オリジナルテキスト「水について考え、調べてみよう」「トイレについて考えよう」を使って、LIXILの社員が現地の教壇に立ち、ベトナムの社会情勢や環境に沿った内容と提案で、継続的に環境教育を実施しています。
ベトナムでの活動開始以来13回目となる今回は、ホアビン省やトゥア・ティエン・フエ省で、環境教育活動やLIXIL VIETNAMの工場見学を行い、子どもたちや国際NPOとの交流を深めました。8月11日から8月14日に行った活動の様子を紹介します。
<目次>
豊かな自然に囲まれたディックザオ村
熱心に話を聞く子どもたちと講師の社員Son
年上のメンバーがリードして進めるワークショップ
ホアビン省ランタック郡はベトナム北西部、ハノイから125kmにある山岳地帯です。この地域に住む人々は少数民族で、傾斜のきつい農地なども利用しながら、独自の言語や伝統習慣を継承して生活しています。LIXILが活動を行っているディックザオ村は、14の集落に、約800世帯、3,600人が生活する村です。今回は、地元の青年団や村の子どもたち、合わせて87名が環境授業に参加しました。
午前中は、日本から訪問したLIXILの社員やLIXIL VIETNAMの社員が、オリジナルテキスト「トイレについて考えよう」を用いて授業を行いました。ディックザオ村では、これまでに2回の環境教育を行っており、参加した子どもたちは、水について学び考える中で、トイレのない生活が水質汚染の原因のひとつであると理解するようになりました。そこで今回は、新たに作成したテキストを使って、トイレが使用されるようになった歴史的背景や、トイレにはどのような種類があるのか、トイレの使い方や掃除の仕方などを学ぶ授業を実施しました。
午後は集落ごとに調査したトイレ事情を、写真を使って模造紙にまとめるワークショップを行いました。午前中の授業を活かして、トイレの特徴や良い点、悪い点を考えます。また、グループごとの発表では、他の集落のトイレの状況を知ることで、自分たちのトイレを見直す良いきっかけになっていました。
LIXILは、衛生設備の整備が遅れているディックザオ村で、トイレ建設を行うSTTの活動の支援も行っています。日本では水洗トイレが普及していますが、ディックザオ村のような山岳地帯ではドライトイレ※1の設置が推奨されています。現地の青年団の協力を得て、14集落のトイレの実態を調査し、川上にある集落を優先的にドライトイレの建設資金の一部を援助し、2013年3月までに50世帯のトイレ建設が完了しました。
※1 ドライトイレ:非水洗トイレ。農業が盛んな地域では糞尿をためて肥料として活用することも可能。
2日目は、ディックザオ村の代表者たちや、環境教育に参加した子どもたちなど、村民90名をLIXIL VIETNAMに招待し、村での環境活動内容の報告と工場見学を行いました。村民からは、ディックザオ村でSTTの支援のもと行われている環境活動や、前日の授業でまとめた村のトイレ事情が伝えられました。村民たちは自分たちの言葉で誇らしそうに発表をしていました。工場見学では、村民たちは実際に稼働している生産現場を見ながら、トイレがどのようにして作られるのか説明を受けました。ベトナムでは、工場見学が行われることは稀であり、村民たちは今回の見学を非常に楽しみにしていたそうで、普段見ることの出来ない生産現場の様子に大変興味深く見入っていました。見学終了後は、製造工程で出た廃棄物や汚水の処理方法についても質問が出るなど、充実した時間となりました。
村の代表者によるLIXIL VIETNAMでの発表
LIXIL VIETNAMの社員の説明に耳を傾ける村民
自分の住む地区の水について考える子どもたち
クアンディエン郡クアンヴィン地区はベトナム中部、フエ中心部から20kmほど離れた海辺の地域です。今回の活動では、クアンヴィン地区の小学生を中心に、合計105名を対象に環境授業を行いました。協働しているBAJは、日頃から地域の子どもたちとともに、環境活動を行っています。他の地区の子どもたちが、共に活動を行い交流することで、それぞれの地区の違いや良さを知る機会をつくり、自分たちの暮らす地区の環境を守る気持ちを育てています。
最初は、子どもたちに環境活動の発表です。子どもたちが何に興味を持っているのか、学んだことをどう活かしているのかを知ることができました。そのあとに、オリジナルテキスト「水について考え、調べてみよう」を用いた環境授業を行い、水はどこからやってくるのか、水が汚れる原因は何なのかなど、水に関する基本的な知識を学びました。
自分たちの手で川の水を採取しパックテストを行う
最終日の午前中は、フーヴァン郡ヴィンアン地区の中学生と周辺地域の児童、合わせて32名を対象に環境教育を実施しました。ここで行ったのは、テキスト「トイレについて考えてみよう」を用いた授業です。日頃の環境活動でゴミの勉強をしている子どもたちにとって、人の出すゴミである「うんちやおしっこ」の話は新鮮で、興味深い様子でした。一方、掃除を自分達でする習慣がないためか、トイレをきれいに使うことの大切さを、十分に伝えることができませんでした。これは次回の環境授業までに解決するべきLIXILの課題です。座学のあとは、パックテスト※2を使った水質調査をしました。子どもたちは慣れた手つきで、活動場所の近くの川の水と、普段出入りする市場の井戸水を採取し、検査を行いました。継続的に調査を行うことにより、季節や環境の変化に伴う水質の変化に気付き、自分の地域の環境に関心を持ち、水や環境を守ろうとする姿勢を身につけています。
午後は、日頃子どもたちと環境活動を行っている大学生ボランティアとの交流会です。テキスト「水について考え、調べてみよう」を使用した、子どもたちとの活動について報告がありました。ボランティアの大学生たちは、環境への知識を深めるだけでなく、地域環境や社会に関しても問題意識をもつようになっています。そして、子どもたちとの活動を通して、ベトナムの環境を守る次世代のリーダーが育ちつつあることを感じました。
※2 パックテスト:薬品を用いて水質汚染調査をするキット。色の変化で汚染度を測定し、汚染要因を判定する。
LIXILは、ベトナムでの環境教育活動を通じて現地とのつながりを深めています。これからのベトナムを支える子どもたちの環境問題への関心を高める活動を続けてきた結果、これまで道に捨てていたゴミを家まで持ち帰るようになるなど、少しずつ現地の人びとの行動に変化が見られるようになってきました。
今回の活動からは、トイレに関する授業を行うための新たなオリジナルテキスト「トイレについて考えよう」を作成しました。STT、BAJ及び原田英典先生(京都大学大学院地球環境学堂 助教)にご協力を頂き、ベトナム現地の実情に沿った内容になっています。例えば、現地で代表的なドライトイレと水洗トイレのそれぞれの特徴の紹介や、トイレのきれいな使い方を盛り込んでいます。
また、STTの活動の一つとして始めたトイレの建設活動により、トイレ建設の資金援助が無い村でも、自主的にトイレの建設を行う世帯が出てきました。さらに、トイレの建設の対象となっているディックザオ村などが、郡に取り組みを報告したことで、他の村でもぜひトイレを設置していきたいとの声が挙がり、郡や村の政策に取り入れようとする動きも出てきています。
1.うんちとおしっこについて
何がうんちやおしっこになるのか、うんちやおしっこを川等のトイレ以外でするとどうなるのかなど、普段の生活を振り返ります。そして、トイレが無いことで昔どのようなことが問題になったのかを学びます。
2.トイレについて
トイレにはドライタイプと水洗タイプがあることや、それぞれの特徴を理解します。適切にトイレを使用すれば、自分たちのうんちやおしっこを肥料に変えて役立てられることを伝えます。
3.トイレの使い方
トイレが汚いと何が起きるか、どうすればトイレをきれいに使うことが出来るかを伝えます。また、トイレを気持ちよく使うために、掃除をすることが重要であることを学びます。
8月11日
ホアビン省タンラック郡ディックザオ村で環境教育
8月12日
LIXIL VIETNAMにおけるホアビン省タンラック郡ディックザオ村の村民による活動報告と工場見学
8月13日
トゥア・ティエン・フエ省クアンディエン郡クアンヴィン地区での環境教育
8月14日
トゥア・ティエン・フエ省フーヴァン郡ヴィンアン地区での環境教育と大学生ボランティアによる活動報告
環境教育活動参加者
・ホアビン省 | タンラック郡ディックザオ村子ども | 87名 | |
タンラック郡ディックザオ村大人 | 20名 | ||
・トゥア・ティエン・フエ省 | クアンディエン郡クアンヴィン地区小学校児童 | 90名 | |
フエ市トゥイビェウ地区児童 | 7名 | ||
フーヴァン郡ヴィンアン地区児童 | 25名 | ||
大学生ボランティア | 13名 | ||
・STT | 代表 | 伊能まゆ | |
ベトナム事務所 | Nguyen Thanh Tung (グエン タイン トゥン) | ||
Nugyen Thi Toan(グエン ティ トアン) | |||
・BAJ | ベトナム事務所 | 片山恵美子 | |
東京本部 | 伊藤祥子 | ||
通訳 | Huynh Huy Tue(フィン フォゥイ トエ) | ||
・LIXIL | CSR・環境経営推進部 | 畠山彩、蓼沼亜沙子 | |
LIXIL VIETNAM 総務部 | Khuat Duy Son (グアット ズイ ソン) |
<Bridge Asia Japan(BAJ)> http://www.baj-npo.org/
1993年設立のBAJは、その名のとおりアジアと日本の架け橋となって国際協力を行っています。ベトナムでは貧困層の子どもたちへの支援を中心に、環境教育については2004年からベトナム中部のフエ市で子どもたちへの教育を本格的に始めました。プラスチックなどの有価物回収や、生活排水を直接流さないように浄化槽を設置するなど、BAJの実践的なサポートにより、現地の子どもたちが、自ら考え行動する活動が広がっています。
<Seed to Table(STT)> http://seed-to-table.org/
STTは2009年設立のNPO法人で、ベトナムの人びと共に、地域の種、自然、そして文化を守り、自給と収入を改善するための経済基盤を整えながら、家族や友人と楽しく暮らしていけるようになることを目指しています。農法などの地域の知恵を記録して伝えることをはじめ、人びとの出会いと話し合いの場をつくり、次世代を担うリーダーを育てながら、食と農と地域づくりに取り組んでおり、ベトナム北部ホアビン省はその活動の中核拠点です。
■LIXILのベトナム事業について
LIXILでは1996年に、アメリカンスタンダード アジア・パシフィックの衛生陶器が最初にベトナム市場に進出し、翌1997年にはINAXブランドの衛生陶器も製造販売を開始しました。現在LIXILは、ベトナムでの衛生陶器トップシェアの地位を築いています。2008年からは乾式外装タイルの製造販売を行っているほか、2010年に水栓金具工場の操業を開始、2012年には電気温水器市場にも進出しています。また、2013年秋に、住宅用サッシ工場も稼動予定で、今後もベトナムでの事業拡大を推進していきます。
■ベトナム環境教育活動について
ベトナムにおける環境教育活動は、水回り製品を提供する企業としての知識や経験を活かし「水」をテーマに、今後のベトナムを担う子どもたちにとって、本当に必要とされる教育の支援を目指しています。2006年にLIXILが、単に資金や物資の援助だけでなく、現地の人に喜んでもらい、さらに未来につながる活動を支援するパートナーを探し始めました。そして翌2007年から、実績あるNPOと活動を開始しています。今後も、NPOやLIXIL VIETNAMの社員と共に、ベトナムの実情に沿った環境教育を実践していきます。
主な活動記録
※3 INAX VIETNAM Co., Ltd.: 現 LIXIL INAX VIETNAM Corporation
※4 INAX VIETNAM TILE Co., Ltd.: 現 LIXIL INAX Saigon Manufacturing Co., Ltd.