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社会で活躍する人材の育成
〜専門技術の担い手を育て、伝統文化・技術の継承に貢献〜

2014年03月25日

住生活産業のグローバルリーダーを目指すLIXILグループ(本社:東京都千代田区、社長: 藤森義明)は、企業内の人材育成はもとより、社外においても暮らしを彩る着物やインテリア ファブリックの作り手、住まいづくりの担い手を育て、支援していくことも総合住生活企業としての社会的役割と考えます。

株式会社LIXILでは、インテリアや外壁など建物や空間を彩るタイルを 美しく施工する職人を育成する「INAX建築技術専門校」を愛知県常滑市で開校しています。また、LIXI Lグループの事業会社で昨年創業170年を迎えた株式会社川島織物セルコンは、創業以来日本の織物史を 芸術、産業の両側面から支えてきました。この川島織物セルコンの子会社である株式会社川島文化事業 団は、京都で伝統の技とセンスを学ぶ「川島テキスタイルスクール」を運営し、伝統技術を社会に根付 かせ継承していく人材の育成に取り組んでいます。

2014年度も新しい生徒たちが入校してきます。今回のニュースレターでは、 この2つの学校の活動についてご紹介します。

INAX建築技術専門校
URL:http://inax.lixil.co.jp/iita
1989年(平成元年)設立
運営:株式会社LIXIL

川島テキスタイルスクール
URL: http://www.kawashima-textile-school.jp
1973年(昭和48年)設立
運営:株式会社川島文化事業団

■タイルを美しく活かす、施工技術の専門工を育てる 「INAX建築技術専門校」

開校の背景と目的  校長:太田恵三

タイルの歴史は古く、紀元前2650年頃に建造された古代エジプトのピラミッドの地下通廊壁面に使用された施釉タイルが、世界最古と言われています。 タイルはその高い耐久性や意匠性により、建物内外の壁や床で幅広く活用されており、サイズ・形状も多彩で場所や躯体によって施工法も多様です。タイルは施工されてはじめてその魅力を発揮しますが、そのためには、高度な専門技術が必要とされます。

「INAX建築技術専門校(以下、専門校)」は1989年(平成元年)に創設された株 式会社LIXILが運営する、愛知県認定のタイル張りの職業訓練校です。開校当時、近い将来職人不足が起 きるという予測がされており、住宅の浴室は在来工法からシステムバスへ、トイレも洋風便器へと移行し 、住宅内でタイルが使われる場所は縮小していきました。危機感を持った全国のタイル販売・工事店らと 協力し、LIXILは「次代を担う若手タイル職人の育成」を目的に専門校を立ち上げます。以来25年間に渡 って即戦力となる若手の育成に尽力し、1,000名を超えるタイル張り職人を輩出しています。

タイル張り技能士は国家資格で、建築現場によっては1級資格所有者に よる監督や施工が義務付けられる場合があります。専門校では講義に加え、実技実習を中心とした5ヶ月 に渡る集合教育と半年間の分散教育(現場研修)、3月に1週間の技能照査を行います。技能照査とは卒業 試験に相当し、合格するとタイル張り2級技能検定の学科試験が免除される「タイル技能士補」の資格を 取得できます。

「2013年度は女性1名を含む20名が3 月7日の最終試験に臨みました。訓練生の多くはタイル工事店などに就職した新入社員で、彼らにとって 専門校は、技能を学ぶ場であると同時に社会人としてルールを学ぶ場でもあります。5月の入校式では高 校を卒業したばかりで学生の雰囲気を残していた訓練生も、10月から半年、親方や先輩と現場に立って 戻ってきた時には体も一回り大きくなり、面構えも違って見えます」と太田校長は言います。

最終試験に臨む訓練生に聞く

3月4日(火)午後、最終試験を前に訓練生は試験課題の練習を続けていました。 タイル張りは、水とセメントを混ぜたモルタルを使ってコンクリートやブロックなどの躯体に1つずつ張 っていく湿式工法が基本とされますが、試験では湿式のなかでも特に難しいといわれる積み上げ張り工 法で厚みの違う2種類の壁タイルを張り、さら床タイルも仕上げなければなりません。最近は、短期間で 施工でき、落下・はく離しにくいなど施工品質が確保しやすい乾式工法が増えており、訓練生は久しぶ りのモルタルの感触に戸惑い苦労している様子でした。

片岡昭太さん 株式会社テラビックキョーワ所属 (愛知県)

片岡さんは会社からもらったタイルを自宅玄関に自分で張ったそうです。 「タイルは見た目も豪華で重量感があって好きです。乾式の施工現場はいくつかやらせてもらって いますが、2丁掛け(227mm×60mm)タイルの目地がきれいに通って張りあがるとすごく嬉しいし、 やりがいを感じます。今は親方について修行中ですが、早くひとり立ちして最初の段取りから仕上 げまでやってみたい」と快活に話します。モルタル下地が上手く塗れないと本人は言いますが、時 間内に完成できない訓練生が多い中、コテさばきもリズミカルに作業を進めます。講師からのアド バイスを真剣な表情で受け止める片岡さんは「会社から初の訓練生なので感謝もしています」と少 し照れた様子でした。

藤本将伍さん 藤本タイル店所属(長野県松本市)

藤本さんは3代続く家業を継ぐため、積極的に技術や技能を学んでいます。 「幼稚園の頃、父が庭で練習している姿を見てカッコいいと思っていました。昨年は1年間左官の勉強 をし、今回はこちらで訓練です。見て盗めというイメージがあったのですが、先生たちは親身になって 教えてくれ、練習時間もしっかりあります。集合研修の5ヶ月はあっという間でした。8月の暑い中、足 場を組んで高い所で作業するというリアルな体験ができましたし、タイルでパターンをつくる授業もあ り面白かったです」前向きな藤本さんは家を継ぐために技能士の資格が必要で、すぐにでも受験したい と意欲を語ります。

「技術を磨き、10年後、タイル施工を支える貴重な存在になって欲しい」古川豊講師

開校準備にも携わっていた古川は4名の講師陣とともに、再び専門校で教壇に 立ち実技指導にあたっています。「タイル施工に関しては、あらゆる工法を学べるように授業を組んでいます 。高いところに登らなければならないですし、作業は汚れるし、暑い寒いなど辛いことも多いですが、美しく 仕上がった時の感激はひとしおです。場数を踏んで技量も上がり、体験して分かることもあります。女性は、 常に1〜2名いますが、この世界に飛び込んでくるだけに、意気込みが違い、伸びますね。仕上げも細やかです 。訓練生が成長すると教えている我々も嬉しい」と、にこやかです。「今はまず職人を増やそうとしています 。数が増えればレベルも上がります。訓練生には『高齢化も進み職人は減っている。だからこそしっかり腕を 磨けば10年後には貴重な存在になれる。職人を刺激し育てられる腕のいいタイル職人を目指せ』と言ってい ます」

修了生がタイル技能士の資格を取り、美しい街並みの創造に貢献できるよう専門校として役割を 果たしています。2014年度は34名がこの専門校で、訓練を開始します。

■歴史と技術を伝承し、新しい織物の世界を創造する 「川島テキスタイルスクール」

170年の歴史を持つ川島織物セルコンは、織物の文化・手織りの技術を伝承し、 交流の場を創出する施設として、創業130年にあたる1973年、京都市左京区に「川島テキスタイルスクール (以下スクール)」を創設しました。開校以来40年間に、約1万人が修了し、海外からも23カ国、約500名が このスクールで学んできました。染色のための工房や100台もの織機を有し、糸の染めから織りまで総合的 に染織の技術を習得できます。寮も併設されており、学生たちは朝8 時から夜9時まで創作活動に打ち込め ます。

スクールには、3年間で染織デザインの基礎から、企業体験など将来の進路を視野に 入れた創作を履修する専門コースと、経験者が3カ月から1年の期間でテーマを持ち製作する技術研修コースが あり、50あまりの短期ワークショッププログラムも用意しています。専門コースと技術研修コースには、大 学卒業後、技術を深めるために入学する人や、企業などを辞めて染織の世界に飛び込んでくる人など実にさ まざまです。学生たちと彼らを時に厳しく指導する講師陣に話を伺いました。

密度濃く実力をつけて、染織の世界を牽引して欲しい 講師:野田 凉美さん

野田凉美講師 京都美術館で開催されている修了制作展にて

織物に魅了され自ら入学してきた学生たちは、とても真剣に学んでいます。「志が明 確で、仕事を辞めてスクールに入学してくる人も多くいますので、私たちの責任も重いです。教えられること は全部詰め込んで、カリキュラムはびっしり。修了後もテキスタイルに関わり、仕事にしていけるよう指導し ます」と野田凉美講師は言います。野田さんは2006年からこのスクールでディレクターを務めています。「染 織の世界は奥が深く、自分で探求していかなければなりません。そのためにもこの1〜3年は集中して学び、じ っくり制作に取り組んで欲しいですね」

スクールを修了して、教える立場へ

講師:表 江麻(おもてえま)さん(右上)、近藤裕八さん(右下)

講師の表江麻さんと近藤裕八さんはともにスクールの学生でした。表さんは2009年に専 攻科(着物専攻)を、近藤さんは2011年に創作科(綴帯専攻)を修了し、今は教える立場です。

表さんは基礎織と留学生への指導を主に行い、「自分で織ることと教えるこ との違いを実感しています。織り方も織機も多彩なので、理解してもらえるようにコミュニケーションを取る ことを大切にしています。学生の年齢は様々ですが、皆さんとても熱心ですし、日本の伝統に対する留学生の 新鮮な反応は嬉しいです」と充実している様子です。

近藤さんは当初着物に興味を持っていたそうですが、先輩の作品を見て綴 (つづれ)織(おり)にのめり込み、川島織物セルコンの手織り工場でインターンも経験し、今は綴織の講師 です。「川島織物と言えば綴れですし。綴織はコツコツ一越ずつ織り、進まない時は1日1cm足らずのこと もありますが、同じ絵柄でも織り手によって1点ずつ仕上がりが違います」と綴織の魅力を語ります。

講師たちを束ねる野田さんは若い二人について「幅広い技術を背景に、言葉を選 んで学生に接することができる」と評価し温かく、そして厳しく見守っています。

織物の未来を担う研修生たち  技術研修生:中山 智晶(なかやま ちあき)さん

中山智晶さんは大学でテキスタイルを学んだ後、出身の富山県南砺市城端に ある「じょうはな織館」で、機織りの実演をしたり、体験教室で教えたりしていたそうです。次第に着物への 興味がわき、知識を深め若い人も気軽に楽しめる着物を作りたくてスクールの門を叩きました。糸を選び、染 め分け、試し織りを重ね、納得のいくまで妥協しません。「集中できる環境で寮もあり助かっています」と 織りの仕上げに取り組みます。

スクールでは、着て美しい着物を目指しています。中山さんは、仕立てられ、 着物を着ている姿(着姿)から一本一本の糸にさかのぼってデザインしていく難しさと面白さを楽しんでいる ようです。

本科:水野友美(みずの ともみ)さん

共同作品「小さな喜び」と水野友美さん
コーヒーのほろ苦さや泡、楽しく入れたてを味あう時間などについて議論を重ね、作り上げました。

専門コースの本科生、水野友美さんも服飾造形を大学で学び、ファッションや舞台 衣装の仕事を1年ほど経て「布の持つ表現力の幅に魅了され、自分で作りたいと思いました」と言い、「服地 ではないテキスタイルの世界の追求がこの1年の目標でしたが、糸から触って選ぶことで自由度が広がり、織 り方も実に多様で発見がいっぱい。ほかの人の制作も刺激的です」と続けます。

本科生には共同作品の課題もあります。コーヒー好きの4人が意見を出し合いながら協力 していく作業を通して、チームで仕事をすることも学びました。

専攻科:渡部加奈子さん

渡部加奈子さんは専門コース2年目の専攻科。 「本科の授業は忙しく、織物文化館や工場、生産地見学などもあり盛りだくさんでした。その点専攻科では 、自分の創作時間が増え、より能動的に動くようになりました」と語ります。30カ国ほどの国や地域を訪問 したことがあり、外資系商社に6年務めた渡部さんは、日本の織物を世界に紹介したいと考えます。「海外 の人が日本で作られた作品を見て、日本に来てくれたら素敵だと思いませんか」と夢を語ります。

日本の染織の伝統を世界へ  川島テキスタイルスクール校長 武部吉輝

染色の様子 堀勝講師(右)

「今の日本は仕事を辞めて学び直すことが難しい 環境で様々な苦労や努力をして入学してきた学生も多く、皆、非常に熱心で前向きです。日本の染織の伝統を 背負って立ち、ビジネスとしても成功させてくれると信じています。スウェーデンとフィンランドからの交 換留学生に加え、口コミやWEB経由での申し込みがあり、2014年度の留学生の定員はいっぱいです。伝統技 術を継承し、グローバルな文化交流に貢献したいと思います」

周辺の植物を集め、草木染を学ぶ留学生たち

天然染色のサンプル

染めた糸による試し織り

■株式会社川島織物セルコン

本社: 京都府京都市左京区静市市原町265
創業: 天保14年(1843年)
設立: 1938年5月
事業: 身装・美術工芸事業(帯や緞帳・祭礼幕など)
インテリア事業(カーテン、カーペット、壁装など)

初代川島甚兵衞が京都で呉服悉皆業*1を創業、昨年創業170周年を迎えた。呉服 悉皆業から織物製造に進出し、インテリア製品の製造を開始。その後、自動車シート*2も製造するなど多種 多様なファブリックを提供。

*1 呉服悉皆業(ごふくしっかいぎょう):デザイン、素材、技術を融合さ せ、最高の染織品(呉服)づくりを進めていく職業。

*2自動車・列車・航空機内装材事業は、平成22年7月1日より事業分割し TBカワシマ株式会社として事業運営。

■川島テキスタイルスクール概要   URL: http://www.kawashima-textile-school.jp

住  所: 京都府京都市左京区静市市原町418
設  立: 1973年(昭和48年)開校
運  営: 株式会社川島文化事業団
授業概要: 専門コース ・・・染織デザインの基礎から専門的に学ぶコース
本科 (1年目)染織の基本技法修得と表現力を養う。糸染め基本、デザイン演習、ホームスパン、絣基礎、ニー ドルワーク、織物の機構、染織の歴史と文化、色彩等を学ぶ。
専攻科 (2年目)難しい素材や技法を試し、表現の幅を広げると共に各自が希望する分野(着物、雑貨、ファッション、 インテリア、造形等)の企画から制作、プレゼンテーションまでを学ぶ。
創作科 (3年目)インターンシップ、展覧会等への参加、北欧提携校への3ヶ月の交換留学や国内外のコン ペに挑戦する等により、修了後の進路を具体化する。
技術研修コース ・・・ある程度、織りの経験を持つ方が対象。3ヶ月、6ヶ月、1年の期 間にテーマを持って研究と制作を行うコース。
ワークショップ ・・・手織りの基本を学べる初心者のための講座や、短期間で綴織、染色 、スピニングなど、様々な技術を習得する講座があります。

■INAX建築技術専門校   URL: http://inax.lixil.co.jp/iita

住所:
愛知県常滑市多屋町4-18-2
設立:
1989年(平成元年)開校
愛知県認定タイル張り職業訓練校
(認定番号1単172号)
運営:
株式会社LIXIL
授業概要:
建築の仕上げにおける基礎的な技能と知識、タイル施工における技能およびデザインに関する知識、 特別教育として安全衛生法による基礎的な技能および知識を習得し、関連資格(玉掛け、巻上げ機、研削 砥石試運転業務、高所作業車運転業務、石綿障害の予防)を習得する。
取得資格:
修了すると「タイル技能士補」タイル張り2級技能検定の学科試験が免除
【労働安全衛生法・第59条第3項に基づく特別教育】資格取得
訓練期間:
集合教育 5月中旬〜9月末および翌年3月<5日予定>
分散教育 4月〜5月中旬、10月〜翌年3月末
受講資格:
タイル工事会社に所属もしくは就職予定の社員(18〜35歳以下)

※ 認定訓練コースは愛知県から認可を受けた職業訓練で、事業主は国から助成金を受給できます。