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巡回企画展のご案内|大阪会場|

2015年11月05日

薬草の博物誌
森野旧薬園と江戸の植物図譜

Museum of Medicinal Herbs:
Morino-Kyuyakuen Garden and Illustrated Plants in the Edo Period

会期:2015年12月4日(金)〜2016年2月16日(火)
会場:LIXILギャラリー (大阪会場)

写真1:シャクヤク Paeonia lactiflora
ボタン科。根は生薬の「芍薬(シャクヤク)」。平滑筋弛緩作用があり、「芍薬甘草湯」などの漢方薬に配合する。『本草図譜』(岩崎灌園著、1830〜44年の刊に彩色を加えて発刊した大正版)より

所蔵:高知県立牧野植物園
撮影:佐治康生

「建築とデザインとその周辺」をめぐり、独自の視点でテーマを発掘するLIXILギャラリー(大阪会場)の企画展では、2015年12月4日(金)〜2016年2月16日(火)の期間、「薬草の博物誌 −森野旧薬園と江戸の植物図譜−」展を開催します。
薬草を主とした本草学が中国から渡来し盛んになった江戸時代。それは近代に向かって博物学へと発展していきました。
本展では、江戸時代から続く森野旧薬園と当時描かれた薬草を中心とした植物図譜を通して、幅広い本草の世界とその魅力を紹介します。

│開催概要│

「薬草の博物誌 −森野旧薬園と江戸の植物図譜−」展
Museum of Medicinal Herbs: Morino-Kyuyakuen Garden and
Illustrated Plants in the Edo Period

会 期
2015年12月4日(金)〜2016年2月16日(火)
開館時間
10:00〜17:00
休館日
水曜日、2015年12月29日(火)〜2016年1月6日(水)
会 場
LIXILギャラリー(大阪会場)
大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪南館タワーA 12階
入場料
無料
企 画
LIXILギャラリー企画委員会
制 作
株式会社LIXIL
協 力
大阪大学総合学術博物館、高知県立牧野植物園、
(株)栃本天海堂、森野旧薬園
 
http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_003358.html

│展覧会の見どころ│

私たちにも馴染み深い漢方薬。その元になっているのが江戸時代に発展した本草学です。江戸後期には原料の一種である薬草は幕府により国産化政策がとられるほど貴重なものでした。当時人々の関心も高く、それを裏付けるように多くの本草書や図譜が出版されました。そして薬草から植物全般へと研究、または興味の範囲が広がっていくのもこの時代です。
そのころ薬草への造詣が深い人物として現れたのが森野初代 藤助通貞 とうすけみちさだ (号: 賽郭 さいかく )です。先の幕府の政策にも尽力した賽郭は現存する日本最古の私設薬草園「森野旧薬園」を開設します。晩年には約千種の動植物の姿を、自然科学的な観察眼で色鮮やかに描いた『松山本草』を完成させました。この薬草園には今も薬草に関わる温故知新の知恵が息づいています。
森野旧薬園の存在をきっかけとする本展は、「薬草」に焦点を当てながら、賽郭の意思を忠実に受け継ぐ森野旧薬園を紹介するとともに、江戸の初期から後期、そして本草学が近代植物学へ移行する時期までに描かれた主要な植物図譜の変遷を、約90点の実資料の他、写真、映像などで展観します。それらを通して、当時の人々が薬草を含む植物に注いだ熱い眼差しを感じ取っていただければ幸いです。

写真2

写真3

写真4

写真5

●主な展示

<Part1:森野旧薬園と『松山本草』>

葛や薬草の町、宇陀市大宇陀(奈良)にある「森野旧薬園」は代々葛粉を製造する森野家10代当主の森野賽郭(1690〜1767)によって享保14年(1729)に開園。約300坪の薬園には今も250種ほどの薬草や観賞用植物が生い茂り、同園顧問の森野 Z子 てるこ さんと平成の賽郭こと原野 悦良 えつろう さんにより江戸時代からの栽培方法で育てられています。Part1ではまず薬園の様子と、森野さん、原野さんのインタビューを写真や映像でご覧いただきます。そして森野家に門外不出の家宝として残されていた賽郭の大作、全10巻の『松山本草』(写真2)から、近年その調査を行った大阪大学によって写真に収められた約10点の図譜の写真とその薬草が元になっている生薬見本を、『松山本草』のレプリカと共に展示します。さらに、全1003種の図譜をiPadより画像データでご覧いただきます。ここでは、漢方薬の原料の多くを輸入に頼る日本で、賽郭が残してくれた貴重な薬園の存在に着目します。

<Part2:江戸の植物図譜>

日本の本草学の歴史は、江戸時代に『本草綱目』が中国から渡来したときから始まります。Part2では、その和刻本(1637年刊)からはじまり、江戸末期に至るまでに描かれた植物図譜(11種の和綴じ本より)と植物図約70点をご覧いただく予定です。それらからは徐々に科学と芸術性が高められていく様が読み取れます。なかでもシーボルトが称賛した『 花彙 かい 』(写真3)、薬用部も描かれた日本で最初の植物図鑑『本草図譜』(岩崎灌園著、1830〜44年刊の大正版)、日本初の科学的植物図鑑『草木図説』(飯沼慾斎著、1856年刊)は当時を代表する植物図です。それぞれの手法を用い、大胆な構図で描かれた図譜は今でも目を見張ります。

<Part3:本草学から近代植物学へ>

江戸時代の本草学は、近代に入って系統的な植物学へと発展します。Part3ではその架け橋となった植物学者・牧野富太郎を紹介します。本草学を多く学んだ牧野はそれを源流とし、あらたな日本の植物学を確立しました。さらに、緻密な観察眼と抜群の描写力によって多くの植物図を残しました。それらは、植物の種類の全体像を描く「牧野式」植物図と呼ばれます。 ここでは牧野富太郎が『草木図説』に書き込みなどを施した原本(写真5)と、牧野式植物図の原図と図版4点をご覧いただきます。

【写真キャプション・クレジット】

写真2:
「オケラ」(右)と「ホソバオケラ」(左)。それぞれ生薬「白朮(ビャクジュツ)」と「蒼朮(ソウジュツ)」の原料となる薬草。『松山本草』(森野賽郭著)より。画像提供=橋京子、森野旧薬園
写真3:
「ブシュカン」。『花彙』(島田充房・小野蘭山著、1759、1765年刊)より。白黒を巧みに使い分けるメリハリの効いた画面構成が特徴。
写真4:
「タチアオイ」。生薬の一種。『草木花実写真図譜』(川原慶賀著、明治初期刊)より。1836年に刊行された『慶賀写真草本』の改題再刊本。和名と洋名を両方記し、その特徴や効能を書き込んでいる。
写真5:
「ツキヌキソウ」。『新訂草木図説』(飯沼慾斎、1875年刊)より。牧野富太郎が愛読書であったこの図譜に部分図を貼ったり、書き込みを加えたりしたもの。その後、大幅に増補した『増訂草木図説』(1907〜1913年)を刊行。

写真3〜5 所蔵:高知県立牧野植物園、撮影:佐治康生

*本リリースに掲載された画像の送付をご希望の際は、メールにて担当者までお問い合わせ下さい。

│関連企画のご案内│

〔講演会〕 森野旧薬園至宝『松山本草』の世界 〜薬草栽培の叡智〜

日 時
2016年1月23日(土)14:00〜15:30
講 師
橋京子(大阪大学総合学術博物館 兼 大学院薬学研究科・准教授)
会 場
LIXILショールーム大阪 セミナールーム
大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪南館タワーA 11階
費 用
無料 *要予約、定員70名
予約方法
電話もしくはホームページから
内 容
八代将軍徳川吉宗による薬草政策の一端を担った森野初代 賽郭 さいかく は薬草栽培に情熱をかたむけた生薬国産化の先駆者です。賽郭は晩年に1003種の生物を描き『松山本草』をまとめました。今回は、森野旧薬園および『松山本草』の調査に携わった橋京子氏に、栽培者の真摯な観察眼と大和の植物への慈愛に満ちた『松山本草』の世界と、さらには、渡来した外国産薬種が日本人の育種・栽培努力で良質の漢方薬原料となっている漢方薬の現状について語っていただきます。

│新刊 LIXILブックレットのご案内│

LIXIL BOOKLET 『薬草の博物誌 森野旧薬園と江戸の植物図譜』

12月上旬発売予定(76ページ予定、本体価格1,800円)
構成案(予定)
【PART1】森野旧薬園と『松山本草』    撮影:白石ちえこ
【PART2】江戸時代の植物図譜      撮影:佐治康生(Part3も)
【PART3】本草学から植物学へ
執筆者:佐野由佳(ライター)、橋京子(大阪大学総合学術博物館 兼 大学院薬学研究科・准教授)、金原宏行(豊橋市美術博物館館長)、水上元(高知県立牧野植物園園長)