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【ニュースレター】東日本大震災復興支援活動「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」
LIXILが制作に協力したタイル壁画が完成、一般公開されました
〜千住博氏・水戸岡鋭治氏とともに、復興への想いを未来に伝えるタイル壁画の制作をサポート〜

2015年04月24日

住まいと暮らしの総合住生活企業である株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長: 藤森義明)は、東日本大震災の津波で全壊したJR石巻線の終着駅である「JR女川駅」と女川町温泉温浴施設「女川温泉ゆぽっぽ」の復興再建プロジェクトに賛同し、その一環として行われた「女川駅」合築の温浴施設をタイル壁画で彩る「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」に協力しています。

2015年3月21日に開催された「おながわ復興まちびらき式典」におきまして、LIXILが制作に協力した温浴施設のタイル壁画が一般公開されました。

式典当日は、不通となっていたJR石巻線の全線開通と、町の復興を支援する世界的建築家の坂茂(ばんしげる)氏が設計した新しい駅舎、ならびに合築された温浴施設「ゆぽっぽ」のオープンを、町民と駆けつけた多くの支援者が祝福しました。

「ゆぽっぽ」の内部には、坂氏の呼びかけに賛同した日本画家の千住博氏と、デザイナー・イラストレーターの水戸岡鋭治氏の2人がアートディレクターとして参画したタイルアートが使われています。浴室には千住氏が原画を手掛ける作品『霊峰富士』と『泉と鹿』の2作品、休憩室および脱衣所には全国から応募があった「花」をテーマとしたイラスト約900点と千住氏の描いた木の絵が融合した、大きなタイル画『家族樹』と『花の杜』の2作品がそれぞれ飾られました。

タイルの制作はLIXILものづくり工房(愛知県常滑市)が担当しました。「花」のイラストを印刷した「転写紙」をタイルに貼り付ける工程では、震災後女川町でタイル工房を立ちあげたNPO法人「みなとまちセラミカ工房」のメンバーが常滑に駆けつけ、作業に臨みました。

そうして1枚1枚丁寧に貼り付けられた絵を、高温転写技術でタイルに焼き付けることで、原画の繊細で美しい表情と、作品に込められた鎮魂と復興への思いをそのままに再現しています。みんなの手で作り上げた一つの大きなタイル画は、女川町の復興のシンボルとして建設される施設の一部となり、新しく生まれ変わる女川の風景を今後何年にもわたり見守り続けていくこととなります。

JR女川駅と「女川温泉ゆぽっぽ」

浴室内 タイルアート 『霊峰富士』と『泉と鹿』

休憩室 タイルアート 『家族樹』

LIXILは、住まいと暮らしの総合住生活企業として、これまでも東日本大震災復興支援プロジェクトに協力するなど、商材の提供をはじめ、さまざまな形で東北の復興支援に努めてきました。今後も、被災地域への継続した支援活動を通じ、引き続き東北を応援するとともに、被災地の一日も早い復興のために貢献していきます。

■「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」概要

東日本大震災で被災した女川町の復興を支援する世界的建築家、坂茂(ばん しげる)氏の呼びかけにより、2014年4月、「女川温泉ゆぽっぽ タイルアートプロジェクト」が始動しました。

津波で全壊したJR石巻線の終着駅である「JR女川駅」の駅舎に合築される女川町温浴施設内に、日本画家の千住博氏、デザイナー・イラストレーターの水戸岡鋭治氏のアートデレクションによるタイルアートを制作することが決定。アートの持つ創造性や想像力を地域コミュニティーの再生や地域活性化の一助にするという同プロジェクトの趣旨にLIXILも賛同し、これまでに数多くのタイル復原や芸術家とのコラボレーションによるタイル制作を手掛けてきた技術者集団「LIXILものづくり工房」がタイルアートの制作に協力することになりました。

■タイルアート完成までの道のり

▲キックオフミーティング風景

2014年4月に行われたキックオフミーティングでは、坂氏、千住氏、水戸岡氏の3氏が揃い、温浴施設を飾るタイルのデザインを検討。千住氏の提案で作品テーマを、富士山、大樹、泉と鹿、の3種とすることが決まりました。中でも大樹をテーマとした作品では、「花」のデザインを全国から募り、千住氏の描く大樹の幹と組み合わせてひとつの作品を完成するという、一般参加型プロジェクトの構想がまとまりました。

女川町の主催により2014年5月から始まった一般公募には、およそ900件の個性的な「花」のデザインが寄せられました。集まった作品は、水戸岡氏のディレクションのもと、千住氏の描く大樹の幹に組み合わされ、大作の原画が完成しました。

 ▲千住氏の作品と、一般から寄せられたデザインを組み合わせて完成した『家族樹』

「花」のデザイン募集と並行し、6月には愛知県常滑市にある「LIXILものづくり工房」で、タイルの制作準備が始まりました。千住氏の作品をタイル絵にする方法には、作品を印刷した転写紙(専用のフィルム)をタイル表面に貼って焼き付ける「フォトタイル」の手法が採用されました。

ニューヨークで制作された千住氏の原画について、写真撮影したデータをタイルに再現していきます。繊細な色の調子を再現するための「焼成発色試験」では、焼成テストと画像データの微調整を繰り返し行い、原画の筆のタッチや色味、濃淡のグラデーションなど、日本画独特の味わいを再現しました。

▲千住氏の原画『霊峰富士』

▲タイルの焼成発色テストピース

数回におよぶ焼成テストを経て、いよいよ本生産が始まるにあたり、11月12日には、地元女川町から「NPO法人みなとまちセラミカ工房」の阿部鳴美(あべ なるみ)代表とメンバー5名が駆けつけ、タイルに転写紙を貼る作業を共同で行いました。

「色を失くした街を、スペインタイルで彩る」を合言葉に発足した「みなとまちセラミカ工房」では、日頃からスペインタイルを制作しており、今回、自分たちの手で女川の復興のためのタイルを作りたい、との思いからご協力を申し出ていただきました。メンバーの皆さんは、慣れない作業に戸惑いながらも次第にコツをつかみ、2日間で780枚ものタイルに転写紙を貼り付ける作業を完了しました。このタイル制作を通して、常滑と、遠く離れた東北の女川との間で新たな絆と温かい交流が生まれました。

11月22日は、いよいよタイルの出来栄えを確認する検品の日。床一面に並べられた大作『霊峰富士』などの作品を、千住氏をはじめ、須田善明女川町長、「みなとまちセラミカ工房」の阿部代表が、一枚一枚丁寧に確認していきました。確認を終えた千住氏からは、「大変良い出来栄え。LIXILのタイル技術の高さに感謝したい」との評価をいただきました。

こうして2015年3月21日、晴れて竣工の日を迎えた「女川温泉 ゆぽっぽ」の浴室の壁には、堂々とした『霊峰富士』がそびえ、『泉と鹿』が清々しく浴場空間を彩りました。公募作品を組み合わせた大作は、『家族樹』『花の杜』と名付けられ、休憩所と脱衣室の壁に飾られました。

見事に再建され、新たなスタートを切ったJR女川駅と合築の温浴施設「女川温泉 ゆぽっぽ」は、女川町民が集い、憩う場としてこれからも町民から愛され続け、タイルを通じて「復興への願い」を後世に伝えていくことになります。

▲みなとまちセラミカ工房のみなさんによる
転写紙貼り作業

▲検品風景
左から須田女川町長、阿部鳴美さん、千住博氏

▲浴場の壁を飾る『霊峰富士』

■寄稿

女川町長 須田善明

坂茂先生と千住博先生には震災後数々のご支援をいただいてきましたが、「(温浴施設の)“ゆぽっぽ”再建の際には千住先生に絵を描いてもらえたら」「お風呂と言えばやっぱり富士山でしょう!」などと談笑したのが三年ほど前のある日。以降、再建が具体化した際に坂先生から千住先生と水戸岡鋭治先生が手掛けられたJR博多駅でのタイルアートを紹介いただきました。全国からご支援をいただいてきた本町であり、感謝の意を込めつつ、皆の憩いの場となるゆぽっぽを女川ファンの皆さんや子供たちが描いた花の絵で一杯にできれば、とタイルアートプロジェクトがスタート。更には千住先生のご厚意により浴室内の“霊峰富士”などのタイルアートも実現の運びとなり、LIXILさまの確かな技術と全面的なご協力のもと館内を飾る素晴らしいタイルアートが完成しました。温泉に入りながらお楽しみいただけるタイルアートの数々。皆さまのお越しをお待ちしております!

NPO法人みなとまちセラミカ工房 代表 阿部鳴美

「みなとまちセラミカ工房」は、震災前に陶芸サークルで活動していた仲間で立ち上げたスペインタイルの工房です。スペインの材料と技法を使って、一枚一枚手描きで色付けをしています。
震災から半年後、陶芸クラブの活動再開を模索し動き出した時に建築家の坂茂氏と、当時京都造形芸術大学学長だった千住博氏に出逢い、千住氏から「皆さんの、ものづくりのために、学校から窯を寄贈しましょう」とご提案いただいたのが2011年12月。「色を失くした街をスペインタイルで彩る」という夢を叶えるための第一歩でした。
ご縁が繋がり、今回の歴史に遺るタイル画の制作に至っていることに、心から感謝しております。花の絵には、女川の未来への希望が込められており、その絵を一枚一枚、心をこめて転写させていただきました。作業に携われたこと大変光栄に思います。 被災地に心を寄せてくださる皆さまに感謝し、これからもタイル制作に励んで参ります。

株式会社LIXIL R&D本部 研究戦略部 ものづくり工房
工房長 小関雅裕

坂茂氏、千住博氏、水戸岡鋭治氏が一堂に会してスタートを切った会議の場で、壁画のイメージスケッチが千住氏から提示されると即座に3者のイメージが一つになり、壁画制作プロジェクトが動き出しました。個性あるクリエーターの方々が、同じ空間イメージでスタートできたのも復興への熱い思いがひとつだったからです。ものづくり工房もその場に同席し、熱き思いを共有できたこと、そして町民代表としてセラミカ工房の皆さんに転写作業を手伝っていただいたことで、関係者のみなさんのイメージされたタイルの制作ができたのだと思います。

キックオフミーティングの1か月後、千住氏がニューヨークのアトリエで制作された原画6点が日本に到着しました。千住氏専属のカメラマンが、すぐさま作品の撮影とデジタルデータ化に着手し、ものづくり工房スタッフも撮影現場に立会い、その作品の美しい色彩とタッチを目の当りにしました。そして高精細度に取込まれたデータが、いよいよものづくり工房に送られて来ると、ものづくり工房では、直ちに「フォトタイル」という高精細度の写真転写技術を使ってタイルへの再現転写テストをスタートさせました。ところが、『霊峰富士』の繊細なグラデーションは、これまでに取組んだことのない高いレベルの再現性を要求されるものでした。印刷、転写、焼成を繰返し何度も試作を重ねるのですが、思うような色・グラデーションのタイルは焼上がってこない。納期に間に合う限界直前に、意を決して新しい印刷機を導入、試験を再スタートしました。これにより色再現テストはスタートラインに戻りましたが、それまでの試験の繰返しで得られたノウハウが功を奏し、短時間の調整試験で、納得のいく再現レベルに達することができ、ようやく本生産に移ることができました。そして焼きあがった『霊峰富士』『家族樹』『泉と鹿』のタイルを一面にひろげ、千住氏、須田女川町長、町民代表の阿部鳴美さん立ち会いのもとで検品を行い、最終承認いただいて無事出荷することができました。

完成した壁面は、関係者の思いと我々LIXILの思いが一つになった結晶だと強く感じ、女川町民の憩いの場、集いの場づくりの一助になれたと確信しています。

■LIXILものづくり工房とは

やきものの街「常滑」で、90年以上にわたって培ってきたやきものづくりの技と心を現代へと受け継ぎ、さらなる未来のやきものづくりを模索する工房。過去の優れた建築に用いられたタイルやテラコッタを復原・再生する取組みや、建築家・アーティストとの交流を通じて、新しいやきもの表現を生み出し続けています。

所在地:
愛知県常滑市奥栄町1−130「INAXライブミュージアム」内

【これまでに手掛けたプロジェクト】

<復原、再現>

・ 東京駅駅舎タイル復原(2012年)
・ サン・フランチェスコ教会<イタリア・ミラノ>外壁タイル復原(2008年)
・ 岡本太郎モザイク壁画「ダンス」復原(2011年)
・ 19世紀イギリス ヴィクトリアンタイル再現

<コラボレーション>

・ 大竹伸朗「直島銭湯 I♥湯」 タイル制作(2009年)
・ JAXAとのコラボレーションによる、フォトタイル制作(2011年)    など