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【ニュースレター】おしりを洗い続けて50年
国産初シャワートイレ「サニタリイナ61」誕生秘話から、未来へと続く“おしりの話”。

2017年09月15日

現在、日本人の約8割が所有し、欠かすことができないシャワートイレ。おしりをキレイにすることはもちろん、清掃性、利便性、エコなど、さまざまな機能性を追求してきたことにより、日本におけるトイレの代表アイテムとして独自の発展を遂げてきました。そして2017年10月には、国産初のシャワートイレ「サニタリイナ61」が発売50周年を迎えます。

住まいと暮らしの総合住生活である株式会社LIXIL(本社:東京都千代田区、社長:瀬戸欣哉)では、シャワートイレ50周年を迎えるにあたり、当時を知る関係者へのインタビューを交えながら、開発までの道のりや発売後の当時の様子などこれまでの50年を振り返りつつ、これからのシャワートイレの未来を考えます。

【当時の開発担当者】

株式会社LIXIL トイレ洗面事業部 トイレ開発部 電装開発室 室長 井戸田育哉

1976年伊奈製陶(現LIXIL)入社。入社当時は主にシャワートイレの開発・企画・メンテナンスを一手に担当。その後、数々のシャワートイレの新機能やタンクレストイレ「SATIS」の開発など、現在まで41年、一貫してシャワートイレにかかわる。現在は開発と平行して後輩の育成にも力を注ぐほか、シャワートイレの歴史を実体験から語ることで、シャワートイレ愛を伝承する役割もこなす。

撮影/梶原敏英

―50年前は、洋風便器が普及し始めた時代。

今から50年前の1960年代は、高度経済成長期の真っただ中にあり、上下水道の整備と住宅のトイレの水洗化が進んでいた時代。また、1964年に開催された国際大会の宿舎に洋風便器が設置されたのをきっかけに、便器の洋風化が普及し始めた時代でもあります。

―プロジェクトは、わずか数名でスタート。

開発メンバーは数名

元々、伊奈製陶(現LIXIL)は、新しいものにチャレンジする風土。洋風便器の普及に合わせ、様々な新製品を世に送り出していきます。

そして、時を同じくして、シャワートイレの国産化プロジェクトが社内で立ち上がりました。しかし、当時はトイレの水洗化も始まったばかりの時代。シャワートイレ国産化プロジェクトはわずか数名からスタートすることになります。

当時、シャワートイレは、医療用として海外で使われていた輸入品のみが存在していました。温水や温風が当たる位置が日本人のおしりの位置にあわず、国産化にあたっては、まず、日本人に最適な位置を割り出す必要性がありました。しかし、日本人のお尻の位置を示すデータは産婦人科や肛門科をはじめ、どこを探しても見当たりませんでした。

―日本人のおしりの位置を割り出すことからスタート。

電気系統の試験風景

手がかりもなく悩み続けた当時のプロジェクトメンバーは、まずは社員の尾てい骨や肛門の位置を測定することからスタートします。測定方法は、身近な衛生陶器の製造過程で使われる粘土や石膏で「しり型」をとるという手法でした。やわらかい粘土に腰を下ろし、おしりのかたちがついたところで石膏を流して固め、その形から尾てい骨や肛門の位置を測定しました。モニターとして男性社員には下半身裸で粘土に座ってもらい、女性社員には三拝九拝して、薄い布をまとった姿で粘土に座ってもらいました。
当時、開発拠点である愛知県常滑市はまだ下水道が整備されておらず、洋風便器の使用が習慣になっていなかったため、モニターの方が座る位置も人によってバラバラとなってしまい、基準値を得るために何度も測定し直し、ようやくノズルの位置が決定しました。

―真下から洗浄し、汚れを落とす洗浄角度は約75度。

シャワートイレで重要なのが、おしりをキレイにする洗い心地です。そして、その洗い心地で特に大切なのは洗浄角度です。温水を浅い角度から当てるよりも、ノズルがお尻の真下に向かって伸びて、温水を垂直にあてるほうが汚れがキレイに落とせます。しかし、垂直に当てるとおしりを洗った洗浄水がノズルにかかってしまいます。最適な洗浄角度を追求した結果、垂直に近く、かつ清潔性を保てる角度が「約75度」であることを割り出しました。この真下から洗浄する洗浄角度の考え方は、現在のLIXILのシャワートイレにも受け継がれています。

―1967年10月 国産初のシャワートイレ誕生。

このような苦労の末、世に出た国産1号機は「サニタリイナ61」と名付けられました。価格は28万円。当時の大学初任給は30,600円、現在の価値に直すと200万円近くになります。現在、LIXILで一番高価なトイレが499,000円(SATIS Gタイプ リトイレ ノーブルブラック・税別)と比較すると、いかに高価なものだったかがわかります。当然ながら、当初は一般の人が気軽に手が届くものでなく、購入者は経営者や医師など経済的に豊かな層に限られていました。

※1968年 厚生労働省 賃金構造基本統計調査から

―用を足す場所から、快適な場所へ。お客さまの声から生まれた様々なアイテム。

レディスノズル

今でこそ一般普及品となったシャワートイレですが、当時は物珍しさから、今では笑い話として語り継がれる様々な珍エピソードが生まれました。ショールームにて目玉商品として展示したところ、おしりを洗う水を顔にあてて、顔を洗う方がいらっしゃいました。
そのような中、さらなる商品開発をすすめ、一般に手が届くようになったのが1980年代後半になります。より多くの方にシャワートイレの快適さを体感していただくために、駅や空港、女性に人気のあるお店などに積極的に導入を進めていきました。当時はちょうど下水道の整備も進み、地域単位で水洗トイレに切り替わるケースも出てきており、そういった地域を対象としたシャワートイレの説明会なども開催しました。
また、「シャワートイレを付けたけれど、使い方がわからないので来てほしい」というお客さまからの問い合わせにより、ご自宅へ伺うことも多くなってきました。
実は、トイレを開発するうえで立ちはだかる大きな壁は、トイレが“究極のプライベート空間”であるところにあります。そのため、ユーザーさまの声を直接聞ける機会は非常に大事であり、お問い合わせをいただきご自宅へ伺った際には、使い方を説明するだけでなく、新しい機能のヒントになるお客さまの様々なご意見を聞かせていただきました。
結果として、洗浄ノズルとは別に女性専用の「レディスノズル」、座っていないときにスイッチを押してもシャワーが稼働しない「着座センサー」、便座がゆっくり下がる「スローダウン機能」など、お客さまの声から新しい機能が多数生まれました。

―次なるステージは「海外」

グローエ 「Sensia Arena」

日本では普及率が約8割までになったシャワートイレは、近年、海外でも注目を集めるようになり、中国においても普及が進んでいます。さらにはヨーロッパや、中東などのさまざまな国で需要が高まっていることから、世界のシャワートイレ市場は年々成長しています。しかし日本とは異なり、トイレのことはタブーに近く会話では触れられない国もあるため、シャワートイレの清潔さ、快適さが口コミで広がっていくことにはハードルがあります。
そんななかで、海外にシャワートイレ文化を普及させていくためには、逆説的ですが、日本のシャワートイレ文化を押し付けないことが重要と考えています。日本が「これはよいものだ」と決めつけて世界に広げるのでなく、世界各国でそれぞれのお客さまにベストなかたちで届けることが重要と考えているからです。
LIXILは現在、グローエやアメリカンスタンダードなど、世界各地の文化に精通したブランドを有し、世界各地で開発や販売活動を展開しています。今後シャワートイレが、その国その国でふさわしい形で独自に進化し続け、“これが、日本から伝わったシャワートイレ?”と思えるほど現地に適合し、根付いてほしいと考えています。