2019年02月15日
台所見聞録
―人と暮らしの万華鏡―
Kitchen Chronicles; A Kaleidoscopic Overview of Home Living
会期:2019年3月8日(金)〜5月21日(火)
会場:LIXILギャラリー (大阪会場)
ネパールのカトマンズ地方に暮らすネワール人の伝統的な住まいの台所は、家の最上階にある。台所はヒンズー教徒にとって神聖な場所のため、家族以外の人は立ち入ることができない。
所蔵:宮崎玲子 撮影:佐治康生
「建築とデザインとその周辺」をめぐり、独自の視点でテーマを発掘するLIXILギャラリー(大阪会場)の企画展では、2019年3月8日(金)〜5月21日(火)の期間、「台所見聞録−人と暮らしの万華鏡−」を開催します。
住まいに欠かせない、生きるための空間「台所」。食物を扱うため、その土地の気候風土や文化とも密接に関わり、また働く場として機能性を求めた変化もみられる場所です。本展は、建築家と研究者による調査研究を見聞録に見立て、世界の伝統的な台所と近代日本における台所改革の様子を、再現模型や図版、日本の家政書など約90点の資料で展観し、人々が求めてきた理想の台所像を再考します。
│開催概要│
「台所見聞録−人と暮らしの万華鏡−」
Kitchen Chronicles; A Kaleidoscopic Overview of Home Living
│展覧会の見どころ│
建築家の宮崎玲子氏は、世界の伝統的な台所を約半世紀にわたり調査し、これまで訪れた約50ヶ所の記録を世界地図にプロットすることで、北緯40度を境に南北で「火」と「水」の使い方に特徴があることを見出しました。北は鍋を吊り、南は鍋を置く文化圏であることに加え、北では水を使うことが少ないので流しが主役にならず、南では洗う頻度が高いため台所では大量の水を使うことを前提にした設えになっています。この違いは気候風土によるものです。また、宮崎氏のもう一つの大きな成果物は、調査後に制作された各地域の伝統的住まいの模型(1/10)です。まるでドールハウスのように作り込まれ、家の中の詳細が一目瞭然です。
日本の台所は、明治・大正・昭和にかけて、激変します。神奈川大学特別助教の須崎文代氏は、西洋の影響を受け急速に近代化された台所について、高等女学校の「家事教科書」に着目、収集し、実証的に研究しました。その研究から「立働」「衛生」「利便」という3つの理念が当時の台所改革のテーマであったことを確認しました。
世界各地の伝統的な台所に目をむけた俯瞰的見聞、日本の近代という時間軸で捉えた台所見聞の記録は、人の暮らしに必要不可欠な空間における適材適所の多様性と人々の創意工夫の積み重ねがあることを私たちに伝えてくれます。
本展は、これらの見聞記録をとおして、人々が求めてきた台所とはどのような空間なのかを再考します。ご期待ください。
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●主な展示と見どころ
<フィギアでみる世界の伝統的な台所>
宮崎玲子氏は、50ヶ国以上の国を訪れ、伝統的家屋における台所調査を行いました。その際の記録や資料をもとに、1/10縮尺の再現模型を22点制作します。今展ではそのうち6点を厳選し、北緯40度を境に、北からはドイツ、ロシア、カナダのイヌイット、南からはインド、ネパール、日本の模型を展示します。(写真2)の模型は、約100年前のドイツ・フランケン地方の小作人の住まいです。産業革命で鉄の生産量が増加した同国では、18世紀後半より鉄製のクッキングストーブが家庭で使われるようになりました。忠実に再現された模型からは、間取りにおける台所の配置や動線から、気候風土にあった家の構造、素材、暮らしぶりにいたるまで見て取ることができます。
<イラストでめぐる世界の台所>
宮崎氏は訪問した家屋の台所を詳細に描いたイラストを残しています。会場では特徴的な台所空間を解説と共に紹介します。(写真3)は中国・雲南省ダイ族の高床式住居の台所です。居間に伝統的な囲炉裏があり、床全体が竹の簀子のバルコニーが、炊事や洗濯の水を流す場所です。これらのイラストをとおして世界の台所を探訪していただきます。
<文献で辿る近代日本の台所>
西洋の影響を受けた日本の近代台所は、上流家庭から導入されました。それを示す図として、明治36年の村井弦斎著『食道楽』の口絵「大隈重信邸台所」があります(写真4)。清潔さと器具配置の合理性、英国産の大きなガスストーブが特徴で、上流社会における台所の模範と称されました。一方、明治から昭和初期にかけ台所空間のあり方や考え方は、「家事教科書」や「家政書」などの教材を使った女性教育の中から普及していきました。大正12年に発行された『実地応用 家事教科書 上巻』では、西洋の棚台所図と腰壁等にタイル張りで仕上げられている様子が描かれ、衛生概念への啓蒙の様子が伝わります(写真5)。以上を含め、当時の文献約30冊を通して台所の進化や変遷を紹介します。
<近代日本の台所を体感>
明治以降、台所空間は「明るく」「換気良く」「掃除に便に」という目標が掲げられます。このような状況下で生まれたのがステンレスの流しです。ステンレスは錆に強く、耐久性があることから戦前期より国内外の流しの素材に使用されてきました。日本では、技術革新によって溶接しない一体型の深絞り加工が開発され日本住宅公団に採用されます。展示では、公団第一号の流し台の実物を当時の図面(写真6)とともに披露します。
<建築家の実践>
台所空間の近代化の一端を担った欧米、日本における建築家らの実践例を紹介します。ル・コルビュジエの「サヴォア邸」(1931年竣工)や藤井厚二「聴竹居」(1928年竣工)などにみられる建築家らの挑戦や試みについて、解説と写真でご覧いただきます。
【写真キャプション・クレジット】
│関連企画のご案内│
〔講演会〕近代の暮らしを変えた、台所の世界
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3月中旬発売予定(72ページ予定、本体価格1,800円)
│巡回展のご案内│
東京会場:2019年6月6日(木)〜8月24日(土)開催予定